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千の夜を越えて
「お館様の居るこの時代を共に生きられて、私は幸せにございます。運命に感謝こそすれ、どうして怖がる必要がありましょう?」
言い含めるような命様の言葉に、倭は首を横に振る。
「そんな諦めるようなことを言わないでください。運命だなんて言葉で死を受け入れちゃだめだ。俺が必ずなんとかします。この世界も命様のお命も、全てをこの手で救ってみせます」
倭は思い詰めたように低くつぶやく。冷たくなったその手を取って、命様は、倭の顔を覗き込んだ。
「命様というのは、私に与えられた役割の名です」
「えっ?」
突然の意外な申し立てに、倭はフッと毒気を抜かれた。
「かつて私に唯一話しかけてくれた飯女のタツは、私が棺に入る前夜にこういいました。
『姫様はこの先、千の夜を超えて運命の殿方と出会うでしょう。その方がきっと姫様を幸せにしてくださることでしょう。だからお二人が出会うその日まで、しばしお休みくださいませ』
そう言って、タツは私に『千夜』と言う名をくれたのです」
命様は倭の手を取り、手のひらに『千夜』と指でなぞってみせた。
「良い名ですね」と褒めれば、千夜は嬉しそうに頬を染めた。
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