孤独な幼少期

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孤独な幼少期

「現世に鬼が現れたとき、石棺より『(きよ)めの姫』が目覚める。これ鬼の邪気を浄化せり。この時、石棺を開きし本家当主はこの姫とまぐわい子を為すべし。これすなわち『夜伽の儀』なり」  テキストを暗唱するように倭が唱えると、命様はクスクスと笑い声を立てた。 「まこと、文書に或るとおりにございますな」  命様に笑われて、倭はカアッと頬を赤らめた。 「私の教えられた夜伽の儀には、もう少し踏み込んだ意味がございます」  命様は空になった盃に酒を注ぎながら語りだした。 「(わたくし)の家系は長子が必ず女の子(めのこ)なのです。その者は『穢付け(けがれつけ)』と呼ばれ、家の中でも隔離されて育てられます。  いずれは本家の穢を全てその身に宿す者。本家に入ってからより多くの穢を背負う事ができるよう、俗世から離され潔白のまま育つのです。  私も物心ついた頃には離れに一人でございました。話し相手もなく、時間になると食事を運んでくる飯女しか外界との接点はございませんでした」 「確か『結界守の力は一子相伝』と聞いたことがあります」 「正しくは『結界守の力を持った女の子(めのこ)は結界守の長女としてしか生まれて来ぬ』のです」  孤独な幼少期を『当たり前』とでもいうかのように、命様は淡々と語る。 「読み書きはという飯女から学びました。知識は全て本を読んで身につけました」  
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