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【最終話】不可避
「AIロボットとはいえ、トシの記憶や性格や仕草や声をそのまま再現してくれるなら、一緒に暮らしたいと思ったんだ。いきなりトシがいなくなる生活なんて、考えられなかったから……。だから、この人たちの実験に協力することにした。それに、もしAIロボットになったトシに感情が生まれたら、そのまま家族として引き取れるという条件だったんだ。だから、期待、したん、だけども……」
父さんは、涙をぼろぼろとこぼしながら苦しそうに言葉を紡いでいた。
そういうことだったのか。
今与えられた情報について学習したことで、事情はほぼ把握できた。
ただ一つ、疑問点がある。
「あの、『AI進化研究所』の方、ちょっといいですか」
上司が返答する。「なんだい?」
「僕に感情がない、と言いますが、家族を失った時の絶望感や悲しみは覚えています。それに、父さんたちと再会した時に大泣きもしました。これは感情ではないでしょうか」
「それは、こちらでインプットした記憶だ。感情じゃない。――軽量アルミで作られた君のその体や、自分だけ何も食べられないことなどに違和感を持たないのも、我々がそうプログラミングしたからだ。自分のことを、本物の人間だと思い込めるようにね」
「そうですか」
「……最終確認だが、感情は一切生まれていないかね? すべてを知った今、少しくらいは寂しさや悲しさという感情を持ったりはしていないかい?」
「いえ、まったく」
それまでむせび泣いていた父さんと母さんが、声を上げながら号泣し始めた。
理麻が急に立ち上がる。
「お兄ちゃん! 本当は少しくらい感情が生まれてるでしょ? だってこの一年間で、嬉しそうにしてたり悔しがったりしてたことがあったじゃない! 顔は機械で作られてるから表情まではわからないけど、声とか仕草で感情を表してたのは伝わってたよ? どうなのっ?」
理麻が怒っている。こんな時僕は、ただ黙って、ごめんよ、ということにしている。
「ごめんよ」
「な、なによそれ! ちゃんと答えてよ」
「無駄だよ理麻さん」今度は部下の方が話に入ってきた。「トシ君、いや、このAIロボットは、トシ君の性格や人柄を正確にインプットされているんだ。もし嬉しそうにしてたり悔しがったりしたというのなら、それはインプットされた設定に従って機械的に行っただけに過ぎない」
「そ、そんな……」
勢いよく立ち上がった理麻だが、そのままヘナヘナと椅子に腰を落とした。
父さんも母さんも理麻も、声を漏らしながら泣いている。そんな中、上司が「規則ですので」と一言告げ、僕の腕を掴み、行こうか、と言った。
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