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2時間目と3時間目の間の休み時間、トイレに入っている時に手洗い場から聞こえてきた会話。
「え? 谷川さんて、ミズキくんのこと好きなの?」
「だって、ずーっとボーッとした顔でミズキくんのこと見てるよ」
「あの身長で、ミズキくんと釣り合うと思ってんのかな? 無駄にでかすぎ」
「そうそう。すっごい身の程知らずだよね~。てか、ボーッとしてるのはいつものことじゃん?」
「あいつ、体育の時邪魔だよねー」
きゃははー、と笑う声。
心がスーッと冷たくなっていくのを感じた。
同じクラスの伊藤瑞生くんは、とても綺麗な顔立ちをしている。中性的で、もしかしたら向こうが透けて見えるんではないだろうか、と心配になるくらいの透明感だ。身長は恐らく160センチ前後。
私もあんな姿形に生まれたかった、と伊藤瑞生くんを見るたびに思う。自覚はないが、憧れのあまりずっとボーッとした顔で見つめている可能性はある。
ちなみに恋ではないと思う。
私は、まだ自分の初恋に気づいていない。少女漫画とか小説の中のヒロインみたいに、特定の人物を見て胸がドキドキしたことはない。
だから、私が加藤瑞生くんを好きとかそういうデマはどうでもいい。真実じゃないから。
ボーッとしてるのは確かだ。私は活発な方ではなく大人しいから、余計にそう見えると思う。目立ちなくないからそれで丁度いい。
問題なのは、身長を笑われたことだ。
ヘボいメリット1個しかない。希望したわけでも、努力の賜物でもない、自分に不釣り合いなこの身長。
身長を伸ばすサプリメントや注射、方法等は調べればたくさん出てくるのに、伸びた身長を縮ませる薬はない。唯一出てきた方法は『重りを着けて立ったまま寝る』なんて、非現実的なものだった。
立ったまま寝るなんて、できる気がしないから試したことはない。
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