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その後増援に回収された私は蒔苗担当官の下へと届けられた。
「いやーこいつはまた手酷くやられたねー! 直るまでは予備躯体だねこりゃー」
『申し訳ありません……』
「いやいやまー構わないってことよ。バンドメンバーも全員生還したしね! ベーシスト氏は煙吸って死ぬ寸前だったけど死にたいやつ守んのは無理ですわー知ったこっちゃねえっての! あっはっは!」
彼は生きていたのか。それだけでも安心した。
安心……?
人工知能たる私が安心。その違和感に男の言葉が思い返される。
【たぶん脳震盪なんじゃねーかな】
「それじゃ予備躯体への移植あるし暫く休止モードかけるから、ごゆっくりー」
『あ、あの……』
つい、声を掛けてしまった。
「んー? どしたの。金縛りの話?」
『もしかして、私の頭部には……その、人間の、脳が……』
恐る恐る口にした私をきょとんとした顔で見詰めた蒔苗担当官が、数秒あけてニンマリと笑みを浮かべた。
「ありゃ、気付いちゃったかー。実はね、そうなんだなー。君は純粋な人工物じゃないんだこれが。ショックだった?」
そう問いかけて来る彼女の顔には悪意も罪悪感も無い。浮かんでいるのは純然たる好奇心だけ。彼女は到底マトモではない。それだけは私にも確信できた。
しかし、この状況を知った誰かは彼女を糾弾するだろうか。
吐き気を催す邪悪だと罵るだろうか。
私もこれが自分と微塵の関係もない他人の話であればそうだったかもしれない。
けれども私は彼女にこう答えた。
『いえ、ほっとしました』
虚無のなかに意識が覚醒する。
完全なる闇。
完全なる静寂。
身じろぎひとつ出来ない。
息苦しさすら感じられない。
完全な虚無。
ああ、またこの夢か。
私は人間の女性を模して造られた躯体を操る人工知能、型番YzFBP9372402。アンドロイド、つまりは機械だ。
「おーん、消すだけなら簡単なんだけどなー! 難しいねー!!」
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