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参
山の中は蝉の鳴き声で溢れていた。
待ちに待った夏休みだ。終業式の日から通学用の優斗の家に泊まり込んでいた俺は、朝、迎えに来た優斗のおじさん──正確には少し違うらしいが、とにかくその人、賢人さんの車で三科家の本宅へ向かった。
もちろん優斗のお母さんも一緒だ。
車で三十分ちょっとと聞いていたけど、実際は四十分ほどかかったと思う。途中からの道はどう見ても車一台がやっと通れる幅しかないし、舗装もガタガタで、大きく左右に揺れるたびに俺たちは大袈裟にギャーギャー叫んで見せた。
箸が転んでもおかしい年頃というやつらしいんで、馬鹿笑いは許してほしい。とにかく二週間、俺は親元を離れ、友人と一緒に寝起きできるというちょっとした非日常にはしゃぎまくっていた。
三科家の本宅が想像以上に大きかったのも、俺のテンションをさらに煽った。
別にマンガに出てくるような大豪邸ってわけじゃない。山道を走った行き止まりに建つこの家には、西洋風の大きな門もないし、手入れの行き届いた庭があるわけでもなかった。
ただ、ひたすらに大きい。
大きな玄関が中央に構えられた純和風建築の平屋は、一目見ただけで充分広いことが分かる。なんというか、横に広い。俺の住んでいる地域も田舎だから古い家はよく見るけど、この家は圧倒的だった。
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