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「いや、充分でしょ」
うんうん悩む賢人さんを励まし、考えこんでいる優斗を見る。
なにか浮かんだらしい。
「トヨ、いいなぁ。村を守ろうとしてた子だし、家と村が豊かになるようにたくさん考えて努力してたから、ピッタリだと思う。豊かと書いてトヨってどう思う?」
「うん、いいな。いい名前だと思うよ」
そもそも優斗の家のことだ、俺に異論はない。結局俺は、この家にとって部外者でしかないんだから。
持ってきたチョークで、優斗が墓石に「三科豊の墓」と書いていく。そして足が汚れるのも気にせずに小雨の中正座した優斗は、持ってきたろうそくに火をつけ、線香を焚いてから静かに手を合わせた。
「全部終わったらちゃんと名前彫ってもらって、もう一回ちゃんと供養もします。遅くなったけど、名前を受け取ってください。──三科豊さん」
細かい雨音だけがする。とても、とても静かだ。
これで本当に、なんとかなるんだろうか。本当にこんなにあっさり終わるのか。あとは無事に、無事に夏休みを送れるのか?
葬式とかでバタバタするだろうから一度は家に帰るとしても、優斗たちはもう、大丈夫なんだろうか。
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