弐拾伍

5/8
前へ
/259ページ
次へ
 目の下も真っ黒になって、たぶん眠れなかったんだろう。その顔つきに、蒲団の中で呻いていた優斗もギョッとした様子で体を起こした。 「賢人さん、どうしたのその顔!」 「え? ああいや、なんでもないよ。──そんなにひどい顔をしてるかな」 「ひどいなんてもんじゃないよ」 「そうかぁ」  賢人さんは疲れ切った顔で笑って、頭を抱えるように自分の前髪を掴んで黙りこんだあと、静かに口を開いた。 「フリーズドライのリゾットがある。それでも食べようかぁ」  立ち上がりながら、台所の戸棚を開いた賢人さんがいくつかの小袋と、マグカップを取り出す。  寝起きにリゾットなんて、なんだかリッチな感じだと思った。冬になるとよく朝食にお湯で溶くだけのスープを作ったけど、リゾットなら米だし、腹にたまるのが嬉しい。  今はものすごくものすごく腹が減ってるし、と、そこで気づいた。 「……え?」  今は食べちゃいけないって、賢人さんが一番わかってるはずなのに。  優斗の顔が真っ青になっていくのも気にせず、昨日の土汚れが落ちきっていない手が着々と準備を進めていく。
/259ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加