弐拾㭭

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 目を細めて口を開いた友理奈に対し、優斗は目を見開いて受け止める。  その後は疑問を口にするでも、狼狽えるでもなく静かに息を飲むと、くしゃりと前髪を握りしめた。 「……なんだよ、それ。わけわかんないよ」  そのまま、ソファの上で顔を覆って蹲る。 「分からないわよね。急な話だし、他人から聞かされたあとにこんなことを言われても納得できないのは分かるわ。でも話しておくべきだと──」  優斗の肩に添えようとした友理奈の手を振り払い、指の間から引き攣った声が漏れた。 「聞きたくないです。今は嫌です! いきなりそんなこと言われたって、頭に入るわけないじゃないか……!」  より体を縮めていく優斗に、友理奈はそれ以上なにも言えずただ隣に腰を下ろしたままだった。  落ちつくのを待つつもりだろうかと脳裏をよぎるも、もはや優斗には、それが友理奈の自己満足以外の何者にも思えなかった。  現在の優斗は、身内から、世間から追い立てられ、四面楚歌にも似た状況にある。稲本家はようやくその中で得られた庇護者だったはずが、ここにきて優斗を裏切り、最後の追い込みをかけているように思えた。
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