弐拾玖(最終話)

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 陸の苗字を聞いただけで怯えたような反応を示した大輔が、自分から子どもの交換を持ちかけるとは思えない。 「……おばさんの欲しがりグセって、本当にもう、ないのかな」  全員の火葬を終えた夜、優斗は陸の部屋だった一室で呟いていた。  陸の父は現在、稲本家から離れている。  妻である友理奈が自分になんの断りもなく、三科家と子どもを交換し、それを十五年隠し続けていたという事実を受け入れられないのだろう。優斗は、それこそが正常な反応だと思えた。  我が子を呆気なく手放し、さらに我が子同然に可愛がっていたはずの陸を亡くしても平然としている友理奈が、おかしいのだ。  我が子と信じていた陸を亡くし、さらに陸の友人だった優斗こそが実子だと言われて、納得できるわけもない。  もしかしたら離婚になるかもしれないなどと友理奈は笑っていたが、笑える神経も理解できなかった。  それにやはり、違和感がある。  他人の持ち物、他人の人間関係、他人の実績まで横取りしていたと堂々と話していた人物が、果たして子どもだけをなに不自由ない生活に送り込んで、満足するだろうか。
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