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ほんの少しだけ、優斗は安堵した。ああ言ってはいても、やはり十年以上自らの手で育て、親子として絆を結んできたのだろう。実の息子である優斗には言わずとも、位牌を前にしてなら言える言葉もあるのかもしれないと思えた。
ならば助けるべきは、愛する息子を亡くした友理奈のことだろうか。
そろりと扉に耳を宛がう。
「生きてたときから、本当に陸はいい子だったね。お母さんを大事にしてくれて、聞き分けもよくて、お母さん大好きだった」
まるで本人が目の前にいるかのような声色だ。
にこやかで優しく、笑顔で話しかけているのが扉越しでも伝わってくる。
やはりそうだ、友理奈は友理奈なりにきちんと陸のことを可愛がっていたのだと、優斗がその場を離れようとしたときだった。
「──だからね陸。お母さん、次はこのブランドのバッグが欲しいなぁ」
耳を疑った。
再度扉に貼り付き、耳を澄ませる。
「この間、お母さんを取材に来た人が持っててねぇ。物凄く素敵だったの! でもその人はなんていうか、体型もおばさんぽくて、お化粧もなんだか野暮ったくてね……きっとお母さんが持った方が似合うと思うのよ」
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