66人が本棚に入れています
本棚に追加
だが三科家そのものに憑いている座敷童を、赤の他人である友理奈が使役することなどできるわけがない。きっと半狂乱になって、その事実に怒り狂っただろう。むしろそのまま、座敷わらしなど取るに足らないおとぎ話だと、理屈をつけて諦めてくれたならよかった。
ただ、友理奈はそうしなかった。
「本当に、大輔くんから三科家のしきたりを聞いていてよかったわ」
恍惚とした声が扉の向こうから漏れてくる。
「家族に不幸があったとき、火葬するまでに飲食したら別の親族も死ぬだなんて、眉唾だと思っていたけど──陸は自分が三科家の人間だなんて知らないから、いつか三科で不幸があったとき、絶対に食事は摂るだろうと思っていたの。そうしたら確実に連鎖は起こるものね。きっと……陸はお母さんより先に死んじゃうだろうなって思ってた」
含み笑いをしながら紡がれる言葉が、真っ黒な粘菌のように扉のすき間から這い出てきているように思えた。
この黒さは、恍惚は、形容し難いまでの強欲だ。ビタビタと這いずり、知覚外から目的のモノを取り囲んで、やがて飲みこんでしまう。
最初のコメントを投稿しよう!