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 あの時の母さんの顔を。  目を見開いたまま薄ら笑いを浮かべてた母さんの顔を。  俺は今でも夢に見る。 「母さん、優斗の家のこと知ってるの?」  得体の知れない怖さを感じた俺は、なんとか会話を続けた記憶がある。そうしないと、黙ったままでいると。  それこそなにも言えなくなってしまう気がしたからだ。  ──ただ、それを見たのは一瞬だけだ。  母さんが俺の問いに答えたときには、食器も持ち直されて、なにもなかったように食事が続けられていた。  だからあの時見た、背筋が凍るような母さんの笑顔が──現実に見たものだったのか、はっきりしていない。  はっきりさせようとは、今も思えていなかった。 「うん、知ってるお家なのよ。代々座敷わらしをお祀りしてるお家でねぇ、ご親戚の皆さん全員で、山の中にある大きなお屋敷に住んでるはずよ。誰もお仕事してないんですって。だからお知り合いは少ないみたい」  俺の見た不気味な笑顔なんてまるでなかったように話す母さんの声に、ホッとしながら俺も食事を再開したのを覚えている。
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