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カウンターキッチンの向こう側から、母さんがにっこりと笑う。
「あちらのご家族からはもう許可が取れてるの?」
「うん。優斗はそう言ってた」
「じゃあご迷惑にならないようにしないとね。いつお泊まりするのかとか、ちゃんと二人で相談しなさい」
「あー……それなんだけど」
「うん?」
さすがにすぐには言い出しにくくて、俺はゆっくり、カウンターを回り込んだ。
母さんは包丁を使った作業に戻っている。二週間も泊まらせてほしいなんて言ったら、驚きのあまり指くらい切り落としてしまうかもしれない。せめてお玉か箸を使った作業をしてくれていれば、なんて思ってしまう。
「なによ、言いたいことがあるんだったらちゃんと言いなさい」
俺の態度に煮え切らないものを感じたのか、母さんの言葉に少し棘が出る。話すときは歯切れよく話せというのは、うちの母さんの教育方針だ。なんというか、もじもじした態度を見るとイラついてくるらしい。
このまま引き延ばしても、逆に母さんのイライラが溜まる一方だ。それなら早く言ってしまったほうが被害が少ないと考えた俺は、祈るような気持ちで拳を握った。
「二週間、泊まらないかって誘われたんだけど!」
目をつぶってようやく言えた言葉に返事はない。
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