1-1 序章

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1-1 序章

 2025年春、過去最大の太陽フレアが地球を襲った。  雲一つない青い空に稲妻が走り、夜になると暗くなるはずの空が、空襲で街が燃えているのではないかと思うほどに真っ赤に染まった。  後にこれがオーロラだと判明したのだが、この時は世界中の誰もがこの世の終わりを感じたに違いなかった。  しかし、磁気嵐対策に万全を期した日本では、地方で数日の停電を起こしたものの大した影響も無く、誰もが安堵で胸をなで下ろしたのだった。  一方、桜島では人知れず密かに異変が起こっていた。  ある日、ネットの書込みで桜島に未確認生物(ユーマ)を見たとの情報が流れた。  更に複数の目撃情報が寄せられ、噂が噂を呼び、お昼のワイドショーで現地リボータと中継を繋いでいた時の事である。 「みなさ〜ん、こんにちわ〜! 私は今ネットで話題のユーマの存在を確認する為に、ここ鹿児島県桜島に来ております。こちらにお呼びしているのは、1週間前にユーマを目撃したというさつまいも農家の川辺さんです。川辺さん、ユーマを目撃した時の状況を説明して頂いてもよろしいですか?」 「はい、あれは午後3時頃でした。ワシが芋を植えていると、あの木の影から顔が見えたんです。最初は近所の子供かな〜と思いましたけど、肌の色が緑だったんです。見間違いかと思って、お~いぼうず? と声をかけると、驚いて林の中へ逃げていきました。今思えば悪い事したかな〜」 「肌の色が緑だったんですね~! そして身長は子供くらいで臆病といった特徴ですね。それからは見ていませんか?」 「はい、見てないです」  その時、撮影スタッフから声が上がった。 「いたッ! 木の上!」  カメラが木の上を映し出すと、緑の肌で子供のようにあどけない顔をした、まるで妖精みたいなユーマがテレビ画面一杯に映し出された。  これを契機に、ユーマの存在が日本全国に知れ渡り、いろんなメディアがユーマを取り上げた。  あるバラエティ番組では「宇宙人」と呼び、ある報道番組では「森の妖精」と呼んだ。しかし、圧倒的多数を占めたのがネットで、アニメに出てくるゴブリンが最も似ているという理由で「ゴブリン」と呼ばれる様になり、やがて一大ブームが巻き起こった。  ある番組の目撃コーナーでは、小さな女の子がテレビでインタビューを受けている。 「私はゴブリンにお菓子をあげたの。そしたらゴブリンさんが喜んでたの!」 「今日のゴブリン情報でした~。最近ほのぼの投稿が多いですね~。○○ちゃんにはゴブリンのぬいぐるみをプレゼントしま〜す!」 「うれしぃ〜」  ホントかウソか分からない情報が絡み合った結果、いつしか「宇宙から来た森の妖精ゴブリン」というイメージが定着していた。 ☆☆☆☆☆☆☆ 「なぁ創真。昨日のネットニュース見たか〜?」  彼はオレのクラスメートで相模慎吾。小学校からの腐れ縁でオレの情報元・・・もとい親友だ。 「見てねーよ。俺がスマホ持ってないの知ってるだろ?」  オレは大和創真 17才の高校3年生。一応この物語の主人公だ。  オレは母と2人暮らし。いわゆる母子家庭であまり裕福ではない・・・いや正直に言おう、はっきり言って貧乏だよ。だから、高校3年にもなって携帯電話を持った事がない。スマホも持っていないオレが、今まで上手くやって来れたのは親友の慎吾がいたお陰である。 「イャ〜ごめんごめん。そうだったな」  分かってるくせに、いつも慎吾が言う決まり文句だ。 「隣のクラスの女子が、一昨日ミンミンに街頭インタビューを受けたんだって。それが全国ニュースに流れて学校で大騒ぎになってんだ!」 「興味ね〜よ」 「まぁそう言うな。ちょっと見てみな」  慎吾がスマホ画面をオレに見せ動画を再生する。 「こんにちは、ゴブリンコレクターのミンミンで〜す。今日は渋谷でステキなゴブナーを発掘したいとおもいま〜す!」  彼女はネットで人気のユーチューバーだ。世の中のゴブリンフィーバーに便乗して、今やゴブリンコレクターを名乗っている。 「あっ、あの子に聞いてみましょう! カメラさんこっちこっち」  そこに映し出されたのは、隣のクラスの女子だった。名前は知らないが、派手好きで有名な女子なので顔は知っている。  服装はセンスが良くてオシャレなんだが、持っている小物が違和感を漂わせている。  ゴブリンが刺繍されたバッグを持ち、携帯ストラップはゴブリン人形、ゴブリン時計云々。おまけに素敵なベレー帽の上部には大きなゴブリンが描かれている。隠しアイテムのつもりなのか? 「すみませ〜ん。ちょっとお話ししてもいいですか〜?」 「えぇ〜ミンミン!?」 「今ね〜、テレビの番組で〜街角のゴブナーを探せってコーナーなんだけど〜、素敵なゴブナーを探してたら〜、あなたを見つけたのよ〜。お話ししてもいいかな〜?」 「感激です! なんでも聞いて下さい」 派手好きな隣のクラスの女子は、嬉しそうにベラベラ喋っていた。 ☆☆☆☆☆☆☆  それから1週間後、特集を組んだテレビ局が現地で撮影中に、女性スタッフ1名がゴブリンにさらわれるという事件が起こった。
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