<1・ヒーロー・ガール!>

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<1・ヒーロー・ガール!>

 ヒーローになりたい。  いつだって弱い人の味方になれるヒーローに。理不尽な暴力に負けないヒーローに。  十一歳。小学五年生の橘田(きった)れもんが、幼い頃から体を鍛えているのはそういう理由だ。世の中には、不条理なこと、腹立たしいことがあまりにも多すぎるものだから。 「おい」  目の前には、中学校の制服を着た少年が三人。れもんの後ろには、べそをかいている年下の男の子が二人。 「なっさけねえと思わねーのか。中学生にもなって、小学生のチビどもからカツアゲなんて!」 「か、カツアゲなんかしてねーよ!」  れもんの言葉に、目の前の男子中学生三人は慌てたように声をあげる。 「ちょっと欲しいもんがあったから金借りただけ!そのうち返すつもりだったつーの!」 「そのうちだあ?こいつら、先月もお前らに小遣いパクられて、返してもらってねえつってんだけど?」 「それも返すつもりだったし!なんだよお前、俺らに文句あるのかよ!喧嘩でもする気か、ええ!?」  凄んでみせる、リーダー格らしき少年。れもんが女の子だから、ちょっと脅せばそれで怯むとでも思ってるんだろう。  まったく情けないとしか言いようがない。こっちからすればバレバレだ。肩は震えてるし視線も泳いでいる。声もひっくり返っていて、人を殴る度胸なんかないのが見え見えである。いざとなった時誰かと戦う度胸もない、だからこそ簡単に言うことを聞く小学校低学年の子供達を標的にしたのだろう。 「いいぜ?買ってやるよ、喧嘩」  ほい、とれもんは下級生たちの中で一番体が大きな少年にランドセルを預けた。 「ちなみにあたしに売った喧嘩、基本返品不可だから。そのつもりでよろしく」  次の瞬間。中学生三人の体が、ぽいぽいぽーい、と悲鳴とともに宙を舞っていたのだった。
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