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◇
「しっかし、あそこから再逆転負けはないよなー」
試合終了後。ヴィオラとあたしは駅前の路上カフェで落ちあい、きょうの試合の話に花を咲かせていた。
「怒りに燃えたオールブラックスの底力を見たわー」
「私は乃々ちゃんの底力を見た思いですけど」
ヴィオラがコーヒーカップを傾けて、ほほ笑む。
試合終了後。客席から通路に戻るエントランスで彼は待っていた。小鳥は彼の首に巻きつき、彼はしっかりと抱きしめていた。
「ご明察でした。でも乃々ちゃんが似顔絵を描くとは予想しなかったわ」
「え? ヴィオラが絵を描けって言ったんじゃない」
「私は手話、ハンドシグナルのつもりだったの。なのに乃々ちゃんがすぐスマホ切っちゃうから」
「あー、その手があったかー」
周囲の視線も気にせず抱き合ったままの二人を見て、あたしはその場を離れた。お役ご免、お邪魔虫。日本での二人の貴重な時間を、無駄にさせてはいかんからね。
月並みだけど愛に言葉がいらないって、障害のある二人に教えてもらった気がする。
「二人が出会えたのは、やっぱり運命だったのかな」
「もしそうなら、そこに乃々ちゃんがいたのも神様が決めた運命の一部よね」
「あたし一人じゃ解決できなかったけど」
「乃々ちゃんのアイデアの方がずっと冴えてたし、行動力は私に真似できない。つまり私たちも運命の二人ってことかな。お互いに欠けた能力を補い合うみたいに」
「あたしたち、いいコンビかもね」
「何を今さら」
ヴィオラと見つめ合い、くすくす笑う。
見上げた青空で、飛び立った鳩が力強く羽ばたいていた。
(了)
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