神様のチケット ~秋山ヴィオラは、窓際でまどろむⅡ

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 小鳥の手を引き、人を押しのけ、ゴールポスト裏席の急階段を駆け上がる。  スタジアムは興奮の渦だった。  6―11。点差は五点に縮まっている。茨戸のPG二本ってとこか。  現在は手前二十二メートルライン内側、日本のスクラムの大チャンス。  こんな大音響のスタジアムで誰かを捜し、大声を出しても聞こえるわけがない。  でも耳が聞こえない人なら話は別だ。小鳥の姿を目立つように見せれば、彼の視覚センサーに引っかかるはずだ。  問題は、どうやって彼の視線をここに向けさせるかだ。 「なんとかトライ決めてっ!!」  その時、信じられないことが起きた。  前半は押され放しだった日本のスクラムが突如、オールブラックスの巨体軍団をぐいぐい押しこみ始めた。黒い男たちの壁がめくれ上がり、桜の圧力に後退していく。 「このまま進めっ! スクラムトライだっ!」  あと五メートル。スクラムが崩れた。だめか、と思った瞬間。  白いボールを抱えた茨戸が脇から飛び出し、猛然とダイブした。  黒い巨体が左右から決死のタックルを繰り出す。茨戸の体が空中で吹っ飛んだが、両腕を伸ばしてラインの奥にボールをたたきつけた。 「決まった! 同点トライだっ!」  高く響く笛、大歓声。歓喜の桜、肩を落とす世界最強軍団。  だが、ドラマは終わっていない。
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