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女の子はまるで反応せず、猛烈な頭突きをあたしに食らわせた。思わずスマホをコンクリの通路に取り落とす。
「痛いじゃないっ!」
そこで女の子は、あたしに気づいた。胸を押さえるあたしを驚いた顔で見ると、ぺこぺこ頭を下げ、一言も発せずにあさっての方向に歩き始めた。通路には液晶にひびが入ったスマホ。
「ちょっと待ちなさいよ、あんた!」
女の子は、呼びかけも無視。
あたしはスマホを拾ってから女の子の後を追い、後ろから肩をつかんだ。
「あたしのスマホが割れたのよ。壊れたもんはしゃーないけど、一言くらい謝りなさいよっ!」
すると女の子は急におびえた表情になり、またぺこぺこと頭を下げた。だけど、やっぱり何も言わない。
その時、割れたスマホが着信音を鳴らした。ヴィオラだ。
「もしもし? 今とりこんでんだけど。あんたどこ?」
「やっと電車動いたわ。でも試合には間に合わないと思う」
なんて最悪の一日なの。
「乃々ちゃん。とりこんでるって、なんかあった?」
「それなんだけどね……あー、逃げられたっ!」
顔を上げると、女の子の姿がどこにもない。
「いきなりあたしに頭突きして謝りもしない、すんごく失礼な子がいたのよっ!」
事の顛末をヴィオラに説明しながら、ぐるぐる見回す。やっぱり姿が見えない。弁償しろと言うつもりはないけど、逃げられたと思うと余計に腹が立った。
するとスマホの向こうから「あのね、乃々ちゃん」という冷静な声が聞こえた。
「話を聞いた範囲での推測だけど……その子、耳が聞こえないんじゃない?」
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