神様のチケット ~秋山ヴィオラは、窓際でまどろむⅡ

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 女の子はまるで反応せず、猛烈な頭突きをあたしに食らわせた。思わずスマホをコンクリの通路に取り落とす。 「痛いじゃないっ!」  そこで女の子は、あたしに気づいた。胸を押さえるあたしを驚いた顔で見ると、ぺこぺこ頭を下げ、一言も発せずにあさっての方向に歩き始めた。通路には液晶にひびが入ったスマホ。 「ちょっと待ちなさいよ、あんた!」  女の子は、呼びかけも無視。  あたしはスマホを拾ってから女の子の後を追い、後ろから肩をつかんだ。 「あたしのスマホが割れたのよ。壊れたもんはしゃーないけど、一言くらい謝りなさいよっ!」  すると女の子は急におびえた表情になり、またぺこぺこと頭を下げた。だけど、やっぱり何も言わない。  その時、割れたスマホが着信音を鳴らした。ヴィオラだ。 「もしもし? 今とりこんでんだけど。あんたどこ?」 「やっと電車動いたわ。でも試合には間に合わないと思う」  なんて最悪の一日なの。 「乃々ちゃん。とりこんでるって、なんかあった?」 「それなんだけどね……あー、逃げられたっ!」  顔を上げると、女の子の姿がどこにもない。 「いきなりあたしに頭突きして謝りもしない、すんごく失礼な子がいたのよっ!」  事の顛末をヴィオラに説明しながら、ぐるぐる見回す。やっぱり姿が見えない。弁償しろと言うつもりはないけど、逃げられたと思うと余計に腹が立った。  するとスマホの向こうから「あのね、乃々ちゃん」という冷静な声が聞こえた。 「話を聞いた範囲での推測だけど……その子、耳が聞こえないんじゃない?」
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