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五分後。
あたしは、スタジアム通路を夢遊病者のような足取りでふらふらと歩く女の子を見つけた。
後ろから肩をそっとたたくと、びっくりした表情であたしを見つめ、泣きそうな顔になって、やはり一言も発せずにぺこぺこ謝った。
なるほど。
最後に大きく頭を下げ、すうっと後ろを向く肩にまた軽く触れる。
「えっと……ごめんなさい。歩きスマホはあたしも同じ。いきなり怒られて、耳が聞こえなくて怖かったんでしょ? 悪かったわ」
あたしも頭を下げた。後半が始まり、焦っている。だけど、ここで謝らないと試合に集中できないと悟った。
女の子は大きな目であたしの口元を見ながらうんうんうなずく。話は伝わっているみたい。
「後半始まってるよ。席は? お友達とはぐれちゃった?」
唇をゆっくり動かしながら言うと、女の子は「あー、あー」と声を出して。それから、ぶわっと泣き始めた。
「ちょ……どしたの? お友達、呼んでくる? 警備員さん? 落ち着いてよ、お願いだからさっ」
女の子は座りこんでわんわん泣くだけだ。これではまるで迷子の子猫ちゃんと犬のおまわりさんではないか。
しかたなく女の子の腕をつかんで近くの休憩スペースに連れて行った。
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