神様のチケット ~秋山ヴィオラは、窓際でまどろむⅡ

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「これ飲んで。落ち着きなさいよ」  コーラを差し出すと、女の子はちゅーっとストローから半分くらいまで吸う。のどがよっぽど乾いていたみたい。またぺこぺこと頭を下げ、お財布を出そうとする。 「いいから、いいから。それより事情を教えて。ね?」  本音を言えば話はちゃっちゃと片づけて席に戻りたいが、泣く子を放置もできない。女の子は自分のスマホを指でぱぱぱっとたたき、画面をあたしに見せた。  >佐保姫小鳥と言います。芦乃原特別支援学校高等部の一年生  あたしと同郷だ。あたしは字を書く方が速いのでノートを取り出し「芦乃原高校 東郷乃々」と名前を書く。 ―耳が聞こえないの? >はい。よく気づきましたね ―勘のいい友達に、あなたの様子話したらわかった >その人、すごいです。白杖や車いすみたいな外見では、耳の聞こえない障害はわからないんです ―補聴器は? >私には役に立ちません  あ、あれは耳が聞こえにくい人の道具か。 >障害が一目でわかると困ることもあるけど、わかってもらえず不便なこともたくさんあります  あたしも小鳥の耳の障害に気づかず、怒ってしまった。  それにしても小鳥はスマホを打つのが速い。声をうまく出せない分、使い慣れているのだろう。 ―お友達はいるの? >彼に誘われたけど来ないんです ―場内放送は? >彼も耳が聞こえません  ああ、そりゃ難儀だわ。
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