神様のチケット ~秋山ヴィオラは、窓際でまどろむⅡ

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 私立芦乃原高校二年、華の初代マンガ部長こと東郷乃々。  あたしは日本初八万人収容ラグビー専用スタジアム、こけら落とし記念試合にやって参りましたっ!  日本代表対ニュージーランド代表。世界王者「オールブラックス」に桜の軍団が挑む一戦である。  戦記物マンガを描くのが好きなあたしが、次に好きなのはラグビー観戦だったりする。  お気に入り選手はフルバックの茨戸侑李(ばらとゆうり)。  ゴールキック成功率は驚異の八六%。技術の高さ、端正なマスク、頑強な肉体。申し分ないあたし的評価Sクラスだ。  ゴールポスト裏の自由席二枚を入手したあたしは早起きして二時間かけてスタジアムに向かい、ファン争奪必至の「茨戸特大カレンダー」をゲットした。控えめに言って最高、毎月一日にめくる日まで先を見ないと誓った。  長い丸めたカレンダーを佐々木小次郎のように背負いゲートに立ったが、マンガ部員の親友、秋山ヴィオラが来ない。  ヴィオラはシャーロック・ホームズみたいに頭の回る娘だ。「なら乃々ちゃんはワトソン博士ね」って言うけれど、私にあんな知的キャラは似合わない。  そんなヴィオラの目的は試合後の画材店めぐり。だから待ち合わせも開始ギリギリに設定した。ところが芦乃原から来る電車が事故で止まり、運転再開の気配がない。  しかたなく先にスタンドに入った。試合は日本がオールブラックスの猛攻を受けて0―11で前半終了。電車は止まったまま、ヴィオラのスマホも不通だ。ハーフタイムと鉄道遅延と高校生の格安スマホ、電波が飛ばないのも無理はない。あたしも大手のdocoyoに乗り換えたいな……。  ふと、スマホから顔をあげると。  あたしと同世代の女子がスマホを泣きそうな顔でにらみながら、猛然と突っ込んできた。 「あ、ちょっと……危ない危ないっ!」
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