グリージョと師匠

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グリージョと師匠

「射撃技術、ナイフ術、隠密行動……よくできている。明日からはお前も、立派な一人の暗殺者だ」 「ほ、本当ですか師匠!」  僕は、暗殺会社「KRS」の実行部に所属する新米社員だ。今までは先輩社員である師匠のもとで勉強していた身だったが、本日ついに独り立ちの許可をもらうことができた。 「おめっとさん。だがな“グリージョ”、お前は技術に関しちゃ問題ないが、私生活の方はダメダメだろ?」 「うぐっ……」  グリージョとは、会社から付けられたコードネームだ。人から恨まれる仕事をしている僕らは、プライバシーを守るために仕事中は必ずこのコードネームで呼び合うことが徹底されていた。  そしてそんな僕、グリージョは家事が大の苦手なのである。今は師匠のもとで衣食住全面においてお世話になっているけれど、洗濯すればシャツは皺だらけ、アイロンをかけたら思いっきり焦げた。何より苦手なのは料理。あらゆるものを焦がし、レンジを爆発させてしまう僕は師匠の命令でもう長年台所に立っていない。今更料理をやれと言われたところで、毎日カップ麺の生活になることは目に見えていた。 「そんなお前に朗報だ。俺が本社の技術部にいたのは知ってるよな?」 「はい。二年前、実行部にスカウトされたんでしたよね」  本社の技術部は、僕らがいる実行部とは違い暗殺業務は一切行わない。しかし、実行部がより効率良く仕事を遂行するために支えてくれるさまざまなロボットを作ってくれているのだ。  その技術部に、師匠は二十年近く在籍していたらしい。なんでも、長らくそこのエース級の人材だったとか。しかし二年前、実行部の部長が師匠の手先の器用さに目をつけ、スカウトしたそうだ。 「実は俺が技術部にいた時に試作してた家事手伝いAIがこの前完成したらしくってさ。本来なら予約待ちしてもらうんだけど、俺の後輩権限で特別にお前に貸してくれるって」 「いいんですか⁉︎」 「だから、ちゃんと大事に扱えよ」 「はい!」 「じゃあ、今日の仕事は終わりだ。またな」  そう言って黒いコートを翻すのは、僕の憧れた姿。この人に近づけたことが嬉しくて、僕はいつも後ろを歩いているけど今日は少しだけ隣に並んで歩いた。
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