令嬢と惚れ薬

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「いや〜本当にご協力ありがとうございます」 膨らんだ財布をブラウンの髪の女性が受け取った。大柄な男がドア向かいの壁にもたれかかる。女性は中身を確かめると口角を上げた。 「こちらこそ稼がせてもらいました。まさか王族の恋を応援することになるとは、薬屋の冥利に尽きます」 「俺の恋も実らせてほしいものだ」 彼女の肩に回そうとした手は叩き落とされたが、嬉しそうに男は笑った。女店主は気だるげに彼を見て、財布を外套の中に隠す。カチャとコインが当たる音が静かな廊下で鳴った。 「では私はこれで」 「あ、薬屋さん」 「あなたの恋は実らない」 「ひどいな。違うよ。もう一つ依頼をしてもいいか?」 おもむろに見上げると、申し訳なさそうに眉を下げる男がいた。王子の側近として信頼されている姿からは想像できないほど緩い表情だ。 「何ですか?」 「惚気を何時間聞いても疲れない薬ってある?」 「……ある。ちょうど2つ」 「え、本当に?ありがとう」 女はポケットから何かを取り出すと、締まりのない笑顔を浮かべる男に投げつけた。大きな手が2つを受け取る。 「耳栓です。よく効きます」
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