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『きゃーきゃー』
『いやーーーー』
『うわぁぁぁ』
「何だ、何があったんだ」
尋常ではない雰囲気に、王子は腰につけている剣に手を添えた。
「殿下!」
書庫にいた側近の1人が殿下のそばによった。筋肉質で殿下よりも幾分か背が高く、壁のような男はギリと歯ぎしりをすると、低い声を出した。
「惚れ薬が暴走したようです」
「惚れ薬?」
「はい。令嬢が慕う令息に惚れ薬を盛ったようです。効果が強く、執着心が出た令息が令嬢を襲い出し、抵抗した令嬢が刃物で令息を刺してしまいました」
「それは……なんとも悲惨な」
王子は悔しそうに目を歪め、手を握りしめた。痴情のもつれのような騒動に心を痛める殿下の優しさにときめきを感じつつも、自身の直近の行動を思い出した。殿下が今も持っているグラスにはミーシャが入れた薬が入っている。
「殿下!」
「ミーシャ?どうした」
「こちらへ。あぁ、アレックスは事態の収拾をお願いします」
「かしこまりました。殿下〜」
側近が拳を振り上げているのも意識の外に置き、ミーシャは婚約者の腕を掴んで広間から飛び出した。皆が広間の中で起きている騒動に注目し、彼女たちが足早に廊下を進んでいることに気づいていない。王子が戸惑う声だけがミーシャの耳に入ってきた。
「ミーシャ、待ってくれ」
「どこに行くんだ?」
「ミーシャ、お願いだ。何か話してくれ」
目的の場所に着いたミーシャはドアを開け、王子を部屋に押し入れる。彼女も数度しか入室したことがない。落ち着いた色合いの家具で揃えられた部屋は王子の自室だ。
「どうして、俺の部屋に」
「殿下!」
「何だ?」
「殿下は今宵は外に出ないでください。誰にも会わないでください」
黒い髪を振り乱し、ミーシャは男の腕に縋り付いた。部屋には甘い香りが満ちている。
「ミーシャ、急にどうしたんだ」
「私は、殿下に惚れ薬を盛ってしまいました」
大きな瞳から涙がこぼれ落ちた。
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