令嬢と惚れ薬

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 その涙に引き寄せられるように王子の手が白い肌に触れ、ミーシャの頬にこぼれ落ちた雫を拭う。 「惚れ薬を?俺に?ミーシャが?」 「はい、申し訳ございません。なので殿下もいつ襲われるか分かりません。こちらで身を隠してください。私は外でお守りします」 「え?」 ミーシャはふわりと身を翻した。が、すぐに太く筋肉質な腕に絡みとられた。細身なのに、鍛えている腕は女性の力では抜け出せない。 「どうして、君が出ていく必要がある。君が俺を惚れさせたかったのだろう?」 「違います」 「え」 否定され、力を抜いてしまった王子の隙を狙って抜け出そうとするが、彼はまた婚約者を捕らえた。 「なら何故?」 「私が盛った薬は心の壁を取り払う効果です。それさえできれば……殿下に惚れない方はいないと。殿下が恋慕う人も必ず」 世間話もできない関係性だったとしても、相手が『殿下と話したい』とさえ思えば、彼の魅力を知ってもらえるだろう。ミーシャは胸を押さえた。幸せになってほしいのに、誰かと仲良く話す姿を想像するだけで痛い。王子は痛みを感じる彼女を温かく抱きしめ、頬を撫でる。 「つまり君は今俺に惚れていると」 「……っはい。申し訳ありません」 答えるとまた涙が溢れた。涙を掬うように王子の唇が触れる。 「謝る必要はない。むしろ何度でも聞かせてほしい。俺もミーシャを愛している」 黒い瞳が大きく開いた。 「え?」 「だから惚れ薬なんて要らない。いや、君がくれた薬のおかげでミーシャの心を得られたのだろうか」 「いえ、私はその前からお慕いしておりました。でも……アレックス達が『殿下は気持ちを告げていない』と『悲惨な結婚になる』と申しておりました」 王子は愛しい婚約者にもう一度キスを落とした。 「直接聞いたのか?」 「いいえ、耳にしただけです。あのお忘れください」 盗み聞きなんてはしたなかったと恥じ入って、ミーシャは王子の胸に頬を寄せる。もう、この腕から逃れようとは思わなかった。 「そうか。では忘れよう。今宵はミーシャとこの部屋でいるのだから。あいつらのことを考える時間は勿体無い」 「いえ、私は外に」 「ダメだ。君になら襲われても構わない。むしろ勇気のない俺の代わりにエスコートしてほしいくらいさ」 「殿下、ご冗談を。ふふっ」 氷の令嬢と呼ばれたミーシャの頬は緩み、王子は輝くような笑みに目を奪われた。側近たちに心配された王子の恋はやっと実ったのだ。
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