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1.鍵のかかった部屋
大学の理学部棟の中、書庫の扉の前に男子学生の小林と教授の青山が立っていた。
「優愛、そこにいるんだろ。別に君を責めるつもりはない。返事をしてくれ」
小林はドアノブを掴んだまま、大きい声で書庫の中にいるはずの芹沢優愛に語りかけた。
「だめだ、出てこないぞ。もう夜なのに、いつまで立てこもってるつもりだ。こうなったら扉を壊すしかないか。全く、大学生は子供じゃないんだぞ。いつまでも駄々をこねて」
教授は飽き飽きしたという様子でいつものように白髪頭をボリボリ掻いている。二人が呼んでいる芹沢という女学生は、小林と同じく青山教授の研究室のメンバーなのだが、彼女が学会に提出した論文の測定データの捏造があったことが発覚したことからこの事態が始まる。小林がその事実を確認しようと話しかけたとき、彼女はよく話を聞きもせずにすたすた歩いてこの部屋に閉じこもってしまったというのだ。
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