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「アイリー、部屋のなかに芹沢という学生はいるか」
「すみません、私は芹沢さんを知りません。部屋の中には人が一人います」
やはりな、という顔で小林と教授は顔を合わせた。
「仕方がありません。扉を壊しましょう。芹沢はみんなが帰宅するまで今夜一晩、隠れ続けるつもりですよ」
小林はそう提案したが、教授は別の方法を思いついた。
「鍵が掛かっているなら、開ければいいんだ。おい、アイリー、ドアの鍵を開けてくれ」
「すみませんが、鍵を開けることはできません。芹沢さんに鍵を開けてはいけないと言われています」
「なんだ、やっぱり役に立たないな。ドアを壊すしかないか」
この部屋の扉は部屋の中からしか鍵を開閉できず、マスターキーも何もない。扉はベニヤ板を組み合わせて作ったような安っぽいものなので、力尽くで壊してしまうのは簡単に見える。
この二人が芹沢を待ち構えているのは何も彼女を責めるためではなかった。
教授は、優秀な生徒だと思っていた芹沢が論文捏造という不正を行ってしまい、このことをどう芹沢と話し合えばいいのかわからず、研究室の中でも一番信頼を置いていて会計の仕事も任せている小林に先に相談をした。さらに、小林は芹沢の恋人でもあったので相談するのはもっともらしく思えたのだ。しかし、その後教授自身の想定とは異なり、小林から芹沢にそれを伝えたことでこのような事態になり、彼女が何かを思いつめて取り返しのつかないことでもするのではないかと、不安を感じ始めていた。
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