1.鍵のかかった部屋

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そこに青山研究室の向かいにある赤坂研究室に所属する太田が歩いてきた。 「こんな時間に大声で騒いで、芹沢ちゃんですか? あんまりいじめちゃだめですよ」 太田は脂ぎった顔でいやらしくニヤついた。この男はいかにも女にはモテない顔つきだが、ネックレスや腕時計など身だしなみには無駄といっていいほど金を掛けたがる男で、質素倹約に努める小林とは好対照といっていい。 「嘘のデータを学会に提出したんだぞ。これは個人の問題じゃない。私達の研究室やひいては大学の名誉に関わりかねない一大事だ」 教授が慌てるのも無理はない。医療分野にも関わる新物質についての研究であったため、発表当時はネットニュースになるほど注目されたのだ。捏造が公表されれば、より大きな話題になるのは間違いない。 一方の太田はそうして教授が慌てているのを面白がっているだけで心配などしていなかった。それよりも心配なのは部屋の中の芹沢の方だった。彼は理系の学部の数少ない女性が気になって仕方ないのだ。
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