Chapter #1

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   相手の姿が見えず、こちらがキョロキョロと辺りを見渡していると、同じ声がもう一度降ってくる。 (上だ!)  見上げると、校舎の窓から一人の男性が顔を覗かせていた。  涼しげな微笑みを浮かべた好青年。  一見すると日本人にも見えるその顔は、遠目からでも整っていることがわかる。 「カヒン!」  彼だった。  思わず胸を高鳴らせていると、隣から舞恋が声を荒げる。 「ちょっと! 私もいるんですけどー!?」  人差し指で自分を差すジェスチャーを何度も彼女が送ると、カヒンはくすくすと可笑しそうに笑った。 「Maiko, Misaki, ガンバッテ!」  ガンバッテ。  片言の日本語で、彼はそう言った。  そのまま私たちが校舎の中へ入ると、彼の姿は見えなくなり、私と舞恋はお互いの顔を見合わせた。 「頑張って、だってさ。あの人、もしかして日本語が話せるの?」 「さあ……?」  そういえば最初に空港で会ったときも、コンニチハ、と日本語で言われた覚えがある。  けれど、その後の会話はずっと英語だったし、たまたま挨拶程度のフレーズを知っていただけなのかもしれない。  
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