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やっと熱が下がったのは、それから二日後のことだった。先生にも心配され、カナコからは少し笑われた。「馬鹿でも夏風邪なんて引くんだね」と。余計なお世話だ。
学校帰り、わくわくしながらキシマのおばさん家の田んぼに寄ると、おばさんじゃなくておじさんがいた。あれ? と少し思いつつも、おじさんのことも知ってるから声をかける。
「キシマのおじさーん」
「おぉ、ナギハちゃんか。久しぶりだね」
おじさんが片手を上げた。おじさんがいるのは珍しい。
「おばさんはどうしたの?」
そう聞くと、おじさんは目を丸くした。
「ナギハちゃん、知らなかったのかい?」
「え?」
突然、高熱で寝込んでいたときに聞いたお母さんの言葉を思い出した。そういえば、何か言ってた。
「キシマのおばさんが亡くなったらしいわよ。あんた、仲良かったでしょ」。
……そうだ、夢かと思ってたのに。
「昨日が通夜でね。今日が葬式なんだ。来てやってくれないかな、その方があいつも喜ぶと思うんだよ」
寂しそうに笑ったおじさん。今日は、おばさんが毎日様子を見に来ていた田んぼを、ダメにしてはいけないと覗きに来ただけだったらしい。
「え、何で? おばさん、この前まで元気で」
「田んぼで死んでたんだ。帰りが遅いから見に来たら、ぱたっと、案山子の近くで」
案山子? 思わず案山子を見た。よく見てみたら、服が前よりもやけに汚れてるような。
「おじさん、これ」
言いかけたとき、案山子の目が光ったような気がして言葉が止まった。前もそうだった。これ、気のせいじゃない。本当に、光ってるんだ。
鳥避けの目的なら、赤色になんて光るはずがないよ。
「ナギハちゃん?」
「いえ、何でも……そうなんですか、お葬式行きますね」
「そうしてくれると助かるよ」
日が暮れるよ、帰りなさいと言ったおじさん。赤く染まり始めた空と、赤に光った案山子の目。嫌な感じがした。
「おじさんも早く帰った方がいいよ。危ないからね」
「心配してくれてありがとう。今やってることが終わったら帰るよ」
「……うん」
そうおじさんに言われて、私は足早に田んぼを去った。最後にちらっと案山子を見て、思わず駆け出した。
あのアンドロイド案山子、変だ。
顔が、赤かった。
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