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「面白い子だね」
田んぼから数百メートル離れた道路で、後ろから声をかけられた。車はほとんど走っていない。歩いている人も、いなかった。
恐る恐る振り返ると、そこにはさっきのアンドロイド案山子がいた。周りには誰もいないし、声をかけたのはこれだろう。
「……何で、ここにいるの。田んぼに置いてあるんじゃ、それに」
このアンドロイド案山子、発声部品はないのにどうして喋るの?
「全国極秘実験だよ、一般国民に知る権利はない」
流暢に話すアンドロイド案山子。足元は泥だらけで、足跡も残っている。音を立てずに走って、私を追いかけて来たんだ。
「極秘実験って、鳥避けの実験なんじゃ」
「アンドロイド案山子は、殺人兵器としての運用が考えられている。その実証確認だ」
殺人兵器。その単語に思わず震えた。だとしたら。
「ど、どういう」
「道端にある案山子が人を殺すなんて誰も思わない。アンドロイド案山子が普及すれば、疑われることなく、効率よく人を殺せる」
「何でそんなことを」
「アンドロイドの僕らが知る訳がない。プログラムされたことに従うだけだ」
ということは、やっぱり。
「おばさんは、君が殺したの?」
「それは、知らない方が良いことだ」
不気味に案山子は笑った。
アンドロイド案山子は、殺人兵器として開発されたアンドロイドだった。発声部品はないはずなのに、何故か喋る。
最後に、私は「何で君は話すの?」と聞いた。
「一度人を殺したアンドロイドは、相手から発声部品を奪う。最初に誰を殺すかが、大事だ」
ということは、この案山子はおばさんから発声部品を奪ったということ?
でも何で、おばさんは人間だったんじゃないの?
そこで、私の記憶は全て途絶えた。
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