ミムとソラと鉄の卵

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小さな女の子と一匹の猫がいた 女の子の名はミム ミムは大人達から荒々しく扱われる やがて三角の目をしたとても用心深い女の子になった ミムは欲望に忠実 欲しいものはなんでも盗む 猫の名前はソラ 優雅な毛の猫は王様のようだと町の人に呼ばれている ソラは好事家たちから狙われていて いつも用心深くしている ソラは欲望に忠実 欲しいものはなんでも盗む ミムとソラは 古びた海辺で一匹の赤魚を獲りあっていた ミムは自分の背丈もある竹の棒を振りかぶって 今にもソラに打ち下ろそうとしている ソラは姿勢を低くして 思うように飛び掛かれれる構えになっている ミムが「やぁ!!」と竹をしならせて地面を打つと ソラはパッと手品みたいに飛び上がって、タッタッタと竹刀を駆け上がっていく ミムが「それ!!」竹の小手を返すと ソラはクルンと宙返り その間にカモメが赤魚を奪って逃げてった ミムもソラも唖然として眺めていたが やがて「あはははは!」と大笑い 涙が出るまで笑った二人はお互いに言った お前生意気だな 家来にしてやる お前生意気だな 家来にしてやる こうしてミムとソラは お互いがお互いの家来になりました ふたりとも家来なんてふしぎですね それからミムとソラはどこへいくにも一緒でした 食べ物はそれぞれが食べたいものを食べます ソラはネズミを捕ってきては (どうだい!)自慢気にミムに見せてやります フン!とミムは鼻を鳴らすといくらかのパンをソラ差し出してやりました パンをかじりながらミムはミムの家族のことを考えていました ミムの家族はみんな亡くなってしまったと聞いていました ある日川向うに父と兄が逃げていると聞いて心底驚いたのです 前回の空襲で家族と離れ離れになり はじめこそ難儀しましたが いまとなってはこうやってコソ泥のように生きるのは悪くないし なによりソラと 一人と一匹の生活は気ままでわるくありませんでした そんななかだしぬけに 家族がいるといわれても困ってしまいます ミムが最後のパン屑を放るとソラが見事に空中キャッチしました 「あしたは、埠頭の方へ鳥の巣を取りに行こう、きっと卵があるはず」 ソラは手についたパン屑を舐めては チラとミムのほうへ視線を向けた 「埠頭の大鳥」 びゅうびゅうと風が吹き荒れています 海は時化て白い波頭をたてています 「ねぇ今日はやめようよ」ソラがミムにだかれてぶるぶると体を震わせています ソラは水が大の苦手なのです 「大丈夫ロックはこういう風の日に卵を産むんだ 一儲けできる」 ロックとは幻の怪鳥と呼ばれる大きな鳥です 今日みたいな風の日でも細い塔に難なく着陸してしまうほど強靭な翼と爪を持っています。 ミムはソラをだいて 埠頭にある塔へ向かった、100年前はコンビナートだったのだろうか 大部分が浸水しその他は朽ちている 塔のペイントもすっかり色あせてかつて栄華を誇った陰もない カンカンカンカン壁伝いに梯子を登っていくと 一層風力が強くなってきた ソラはミムの肩に顎を乗せてぎゅうっと爪を立て両手で捕まっている ミムはこの塔に上るのは初めてではなかった その時の算段もあって 今日こそ卵を奪おうと考えたのだ ソラは水を極端に恐れる 泳ぐことはおろか雨に当たることすら嫌がるのだ海にでも落としたら大変なことだ ミムの手にはロックの巨大な卵とソラを入れられるよう大きなズタ袋が担がれていた  袋は暴風に玩ばれている 天辺に小さなミムの手がかかった ソロリと覗いてみると鷲のような巨大な鳥が卵を産んでいるところだった 「やった!」ミムは自分の思い通りになったことに嬉しくなった。(ソラ今日は屋根付きの宿でお風呂にも入れるぞ!)ロックはいくらかみじろぎし、巣の上に幾つかの卵をゴロリと産み落とすと翼を風にたなびかせてやや不安定に飛び立っていった。 ミムはズタ袋にソラを放り込むと 卵に駆け寄り自分の体の大きさほどの卵を袋に押し込んだ(押し込んだときに”ぎゅう”と鳴き声がしたのはまぁしかたない) カンカンカンカン卵は重くて降りるのはより骨が折れた 「あっ!」ツルリとミムの手が滑って梯子を抱きかかえる格好になってしまった 風は容赦なくあたりミムの細い腕では長く持ちそうにはありませんでした 塔の側面に卵がゴン!と当たまりました ズタ袋の網目からみるみる割れた卵の中身が零れ落ちて 袋のなかにはドロドロの猫が一匹残されているだけになりました そして満帆に風をはらんだ袋は たまごでつるりとすべって海に飛ばされてしまいました 「ソラー!」ミムはドボンと海に飛び込み、なんとかズタ袋を引き寄せました 時化た波に翻弄されながらも岸にはいあがったミムはあわてて袋の口を開けてやりました そこには濡れそぼって半分くらいになったソラが酷く怯えていて 猛烈な速度で駆けだして行ってしまいました それからミムがソラを探す毎日が始まりました ソラー!ソラー!探していたミムももうすっかり元気がありません 水も食べものも足りないのです 猫が一匹ミムの前を通りました(ソラがあんななもんか!)ミムは悔しくて心配でポロポロと涙を流しました ソラー!ソラー! ある日 西の空の彼方から飛行機がやってきて 街に爆弾を落とした その中には不発弾も混ざっていて それは鉄でできた木の実のようだった ミムはそのまだ温かみのある木の実を拾い、 焼け崩れてしまった家と町を見渡しました また戦争が始まったんだ 焼け野原にはボスのミーコもお友達のエリちゃんも見当たらない ソラ!きっとおびえて隠れてる!叫びながら町を走り回るがソラはみあたらない 大人がミムの肩を掴んで「逃げるんだ!またすぐ空襲がくる!東の湾の方に子供たちを保護している!そちらへ走るんだ!」 「ソラが!ソラが!見当たらない!」 「いいから早くいくんだ!死にたいのか!」おじさんはミムの手をぐいっと引っ張った。 やがて轟音とともに爆撃機が雲霞のように空を覆い ほどなく爆撃を始めた おじさんもミムも慌てて走り出した。逃げながらもミムは(...ソラ!...ソラ!...ソラ!)とおまじないのように唱え続けた。 3度の爆撃の後 夕刻をもって死神たちは帰っていった 避難所はバラックに塗装が施されていた ここが軍用施設でないことの印である ここでもすでに非難を終えた住民がヒエラルキーを作っていた 餓えた年寄りと子供から死んでゆくことは、町と変わりがなかった くたくたになって避難所についたミムはみた 悪ガキどもにかこまれているのはまちがいない ソラだ! 「ソラ!」駆け寄ると 中でも一番体の大きな男の子がドンとミムの肩を突いた 「ソラ、、、それはあたしの猫だ!」 「どこかにその証拠でもあるのか!」さっきの子が怒鳴った ミムは歯ぎしりした 「ソラ!ソラ!」 よく見たらソラに足かせが咬まされている ミムは怒りで頭中の毛が逆立ったようになった「お前ゆるさないからな!」 互いのやり取りに夢中になっていると 白髪の老人が一本の棍棒を手にゆらゆらと子供たちに近づいてきていた 「怪我したくなかったら、あっちいっとれ!おいぼれが~」 「そうじゃ~そうじゃ~」 悪ガキは囃し立てつづける とその刹那 バクッ! と鈍い音がして大きな男の子がエビぞりになって倒れた みな人間が殴られたということの衝撃より 頭部からの大量の出血に息を飲んだ 「死、死んじまう」 誰も介抱もできぬうちに 老人はソラの足かせをはずしてやった ソラは足が痛むのだろううずくまっている 「ソラ!」ミムがかけよると ソラはミムをペロペロとなめた 「こちらへおいで」老人は誘う ミムは大事にソラを抱えてついていく やがてたどり着いたのは灯台だった なかにはいくばくかの食料と 何かの部品 「さぁおいで、その子の手当をしよう」 老人は慣れた手つきで治療を行っている 「あれはなに?」 「グライダーだ あれに触れちゃいけないよ 今日はもう明かりを消して寝よう 直夜討ちがかかる なにせ人を殺したんだからね」 さっきの子供が倒れるのを思い出した ミムはガラクタのなかに一振りの短剣があるのがみつけると胸に握りしめて目を瞑った 躊躇なく子供を殺してしまう老人だ 武器は持っていた方がいい ソラが静かに寝入っているのが見えた やがてミムも安心とともに微睡に落ちていった 翌朝は凪だった「ここはだれにもみつからんよ」と爺さんは言ったが 昨日の殺人事件の捜査を行うには適した日だ にゃあ ソラは少し元気を取り戻したようだ 「何か手伝うことある?」 「いいやもうしまいさ、さあいこうか、グライダーを丘の上にあげるのを手伝ってくれ」 「こんな動力のないのが飛ぶの?」ミムは目を丸くしている 「いずれにせよここは終いだよ」 みんなでコックピットに乗り込むとぎゅうぎゅうだった 「さぁいこう!猫をしっかりかかえとけよ!」 グライダーは坂道をガタガタとくだって次第にスピードを増していった 一向に飛ぶ気配はなくついに崖から飛び出ると急降下した ミムもソラもぎゅうっと目をつむったとき グライダーはフワリと浮いた 「直に空襲が来る!向こうの島まで行くしかないぞ!」 「わかった!」ミムは惜別を込めて遠ざかる故郷の大地を振り返った 岸壁の集落に父と兄が立っているのがみえた 私はもう空襲の下で麦を撒いておびえる生活には戻れない 襟元からソラが顔をだした ソラにはソラの故郷があるのだろうか ミムは短剣を握りしめながら前の方をにらめつけていた 陽光を受けてグライダーは軽快にスイと飛んだ
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