優しい観客と復讐の爪音

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映美のため、知果から逃れるため、俺はその計画に乗ることを決めた。 何でも隣市の大学に復讐相手はいるらしい。 ターゲットの名は、(おい)(かわ)(あさ)()。 相当な美人で、絶大な人気を誇るが、琴吹の調べたところ、異性との交際経験はない。おそらく処女だろうから、その女を犯して、最大級の傷を刻みつけてくれ、と琴吹は言った。 当然、それが犯罪であることは承知している。未成年ではないから、逮捕されれば有罪は免れない。だが琴吹は、そもそも及川が訴える可能性は低いと言い、訴えたとしても必ず示談に持ち込んで執行猶予を勝ち取ると言い切った。 俺も馬鹿じゃない。琴吹の計画が完全に安全だとは思わない。だから及川に真実を話し、犯したことにしてもらって、琴吹から百万円をいただく。要するに復讐したという『結果』が欲しいのだろうと思い、そうするつもりでいた。 だが琴吹も馬鹿じゃなかった。 夕暮れ、及川の通う大学前で俺を待ち、 「完全に遂行するまで見届けます。避妊はしなくて結構です。最後まで終えたら、お約束通りに百万円、その後、二度犯したらもう百万、三度犯したらもう百万と上乗せします。最大で一千万円まで用意してあります。あの女に最大級の屈辱を与えてください。これは復讐です。絶対に手加減しないように」 憎悪を(たぎ)らせた目で、バッグに入った札束を見せてきた。 こいつは狂気だ。だが百万円は手に入れたい。二度も三度もやってしまえば執行猶予はまずつかない。一度だけ、一度だけだ、及川に泣いてもらうしかないと覚悟した。
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