鬼の三段リーグ

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鬼の三段リーグ

 12勝5敗 ───  牟田は三段リーグの成績を見て(うな)った。  あと1勝で昇段争いに加われる。  一人16勝1敗で独走する男がいた。  隼鷹という中学生である。  詰襟の学生服姿が初々しい。  中学生の体格は個人差が大きい。  華奢な身体に青白い顔だが、スラリとした印象があった。  美容院でセットしたと思われるマッシュショートがトレードマーク。  記者が来ると必ず奴の対局を見ている。 「最終局は、強敵の牟田ですね。  意気込みなどを聞かせてください」  たまたま居合わせたので、本人にまる聞こえだった。  神童といわれ、天才の名を欲しいままにしてきた中学生は何を言うのだろう。  固唾を飲んで見守った。 「棋譜を研究しています。  とても強いです。  最強の相手でしょう」  リップサービスだと思った。  最終局を盛り上げて、話題をさらおうというわけだ。  記者は嬉しそうにメモを取った。  最終戦は異様な熱気の中始まった。 「隼鷹です。  よろしくお願いします」  小さな声だった。  13歳ほど離れた少年は、将棋盤に視線を落とす。  双方、大橋流で駒を並べた。  先手は牟田である。  戦型は雁木(がんぎ)。  同様の戦型が江戸時代にあったが、現代とはかなり違う。  女流棋士でも愛好者がいた。  当時はまだB級戦法といわれていたが、牟田は独自の研究をして改良していた。  柔軟に相手の出方を見て対処できる戦型で、センスが問われる。  三段リーグで使う者はほとんどいなかった。  つまり、ここぞというときに取って置いた懐刀を抜いたのだ。  雁木は必ず流行る。  牟田は確信していた。
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