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11 お弁当を作ろう
領地に戻って、予算とにらめっこ。
どうしようねえ。でも、今しかやる機会がない。もしこの機会を逃したら、前回の人生と同じようにタクランの町はさびれたままなんだろう。ひなびたというか、前向きに見て静かな町のまま。ここは末永く繁栄してほしいだよね。たとえ、私たちが断頭台の露として消えてもさ。領民たちには幸せになってほしい。
王都入り口からタクラン駅までの鉄道ができるまで、どこかでお金を稼がないといけない。どうしたらいいだろう。あ! そうだ。王都で見たお弁当を駅で売ってみてはどうだろう。どうせ現状素通り予定のタクラン駅だ。これで小銭でも稼げればとてもありがたい。ついでにリバーサイド駅、タクラン駅、マイミア山駅、王都入り口駅でお弁当を売るっていうのはどう?
ビジネスマンたちが買うに違いない。お昼にはお腹すくもんね。
ふふふ。いいこと思いついちゃったよ。
「お嬢さま、気持ち悪い……」
侍女に冷たい目で見られてしまった。でも、このアイデアすごくない? お弁当の中身はどうしよう?
お弁当を作るのは、やはり料理上手な女性か、料理人かしらね。タクランの町の飲食店の料理人たちに意見を聞かないとね。やる気になってくれるといいな。あとは、子どもが小さくてまだ働けない女性とか、事情があって家にいる女性に内職としてお弁当作りを頼んでもいいかもしれない。ケガをして不自由な男性もいる。みんなに手伝ってもらおう。
やっぱり、そうなると分業がいいだろう。芋の煮物担当、魚担当、肉担当、パンの担当、駅で売り子担当などだな。
ああ、その前に試験販売したほうがいいね。
うろうろ執務室を歩く。こうすると考えがまとまるんだよね。
うーん、あとは、何をしないといけない?
紙に書き出してみる。そうだわ、事業の担当責任者をするかだね。うちの料理人に責任者をやってもらってもいいけど。うちの料理がどうなるかしら。ちょっと心配。いざとなったら自分たちの食事は私かお母様か、ぎっくり腰のお父様が調理場に立つことになる。食べられるものが作れるか微妙だわ。
とりあえず、料理ができて、責任者になってくれそうな料理人を知らないか、うちの料理長に聞いてみよう。
調理場を覗くと、ちょうど休憩中だった。
「あの、料理長、聞きたいことがあるんだけど」
「なんだい、お嬢ちゃん」
小さいころから調理場に出入りしていた私は、食べられないクッキーとか、パンを焼かせてもらっている。つまり失敗作ね。
「失敗したら、またつくればいい」
いつでも料理長は目を細めて、私にチャンスをくれる。おかげで食べられるクッキーとあまり膨らんでいないパンは焼けるようになった。
60代を過ぎている料理長にとっては、私はたぶん孫扱いなんだと思う。いつも褒めて甘やかしてくれる。
「この辺で信頼できる、美味しい食事が作れる料理人ていないかな?」
調理場がざわついた。
「俺ら、首か?」
「なんだって! おまえら、何をやらかした」
料理長の額に青筋がたつ。包丁が飛んでいきそうなくらいの怒声だ。ちなみに私以外には厳しい。
「おまえら、変なもんお出ししたんじゃねえよな?」
「出してません!」
料理人たちがガタガタ震えだした。
いや、そういうのじゃないんだよ。ねえ、話聞いて。
「あのね、実は駅でお弁当を売ろうと思って。うちの食事はいつも美味しいから、誰か腕の立つ料理人にお弁当の開発とか、責任者をお願いしたいの。でも、うちの調理場から引き抜くと、うちの料理が残念になっちゃうでしょ?」
「なんだ。そういうことか。残念になんかさせないけどな。ちょっと待ってな、お嬢さん。考えてみるから」
料理長がニコニコしだした。料理人たちは胸をなでおろしている。ごめんね、みんな。
「それなら、ニコラスがいいか。こいつはタクランの町で店を出したいって言っていて、半年後に結婚するっていうんですよ。ニコラスなら腕は確かだし、店を出してもいずれ上手く軌道に乗るとは思いますが、タクランの町はなんてったってひなびていますからね。店が軌道に乗るか心配していたんです」
そう、タクランの町は活気がないんですよね。わかります。町に受け入れられ、常連ができるまで経営がキツイってことでしょう。わかります。
「ニコラス、お弁当のこと頼んでいい?」
ニコラスの方を見る。
「お嬢の頼みだ。おまえ、やれるよな」
料理長、脅しちゃだめですって。
「はい。お弁当って、どんな感じなんですか。いくつつくるんですか?」
ニコラスは目を輝かせた。どうやら乗り気らしい。よかった。
簡単に王都で売っていたお弁当の説明をすると、ニコラスはうなずいた。
「それなら、すぐできそうです。お弁当を朝仕込んでおいて、売ればいい。傷みにくいものがいいな。あとは、問題は人手なんですが」
「人手なら、考えがあるの」
にこりと笑うと、ニコラスは「では、手配のほうをよろしくお願いします」と頭を下げた。領民みんなにお金がいきわたるように、働きたくても働けない人たちにちょこっとずつ働いてもらう予定だ。
「それぞれの駅で10個ずつ販売してみましょうか。反応を見て徐々に増やしていきましょうか。お店の名前が決まっていたら、宣伝にもなるので、ニコラスが決めておいてね」
「お嬢さま。ありがとうございます」
料理長が感動して目をウルウルさせている。
「ありがとうございます。お弁当を売るとき、店の宣伝になるようお店の名前もわかるようにするんですね」
ニコラスは笑顔になる。
「ええ、そのつもり。包み紙に領地の名物や観光地を印刷するから、そこにあなたのお店の名前も入れるわね」
「お嬢、あったまいい。お嬢は昔から賢かった。これでこの領地も安泰だ」
「弁当の開発はこっちに任せてください。こいつとうちの料理人で知恵を絞ります」
「よろしくね」
料理長は大喜びだった。やっぱり孫扱いだったけど。私褒められた方が好きだからいいの。
さて、領地をめぐって、働きたいけれど働けない人を探してきましょう。
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