9 ベラルント銀行、再び

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9 ベラルント銀行、再び

 さて、宿題をもって、再び王都へやってきました。いざ、ベラルント銀行へ。  質問されたらすぐに答えられるようにとできるだけ資料を持ってきたんだけど。はっきり言って重い。  ちなみに侍女はついてきてない。だって、下位貴族だしね。すぐに王都から帰れるし、ベラルント銀行に行って帰ってくるだけだから。  もう都会にも慣れた。今日は道に迷わないもんね。  ホテルからまっすぐベラルント銀行に歩き出す。  あ、嫌なものを見ちゃった。  やだなあ。どうしよう。隠れようにも脇道ないし。お店も空いてない。  銀行は午前9時に開くけど、そのほかの店は午前10時からだ。    鉢合わせするなんて。なんか、最近私呪われているんじゃないかしら。ツイてない。  どんどん奴が近づいて来る。今というか、当分顔を会わせたくないナンバーワン。  そう、元婚約者ロレンス様だ。  しかも女連れ。腕を組んでイチャイチャ、ベタベタ。仲がよろしいようで何より。  おそらくあれは新婚約者のエリザベス様よね。見たくなかった。べつに未練があるわけじゃないの。でも元カレの新彼女って見たくないわよね。  はあ。これってあいさつしないとダメよね。  エリザベス様の家格は伯爵様。だから、私がロレンス様にご挨拶する分には問題ない。上位の家格のエリザベス様に紹介もなく、私からお声をかけることは失礼にあたるのよ。  ということは、やはりロレンスに声をかけなきゃだめよね。あ、ロレンス様って言わないと。気をつけようっと。もう婚約者じゃないんだからね。  こうなったら乙女の武器。淑女の持ち物、扇をだして、口元を隠そう。私、感情を殺すのが下手だからうっかり顔に出ちゃうかもしれない。ああ、貧乏のせいでろくなことがないわ。 「ロレンス様。お久しぶりです」 「ああ、マリー嬢。元気そうで何より。王都へは観光かい?」  ロレンス様も私に気が付いて、エリザベス様とともに歩みを止めた。 「ええ、そんなところですわ」  ロレンスは私の大きな資料を入れたバックをみる。 「重そうだね」 「そこまでもっていくだけですので、大丈夫です」 「そう? 紹介しておくよ。こちらは僕の婚約者のエリザベス嬢だ。エリザベス、こちらは元婚約者のマリー嬢だ」 「マリー様! 伺おうと思っていたのです。この度はご迷惑をおかけして、申し訳ございませんでした」  エリザベス様は伯爵令嬢なのに、すまなそうな顔をしている。やむを得ない事情があったのは分かっているので、謝らないでほしい。もっと嫌な女でいてほしかったな。そうしたら悪口に一つでも言えるのに、こんなに素直に謝られちゃうと文句も言えない。  エリザベス様は涙で目を潤ませる。 「いいんです。私とロレンス様は幼なじみというだけでしたので」 「ほらね、マリー嬢はそう言うと言っただろ? マリー嬢はさっぱりしているから、恨んだりしないって」  ロレンスは誇らしげにエリザベスに言った。  お前が言うな! と突っ込みたくなったが、エリザベス様がいるので、放っておく。ちょっとそのドヤ顔がむかつく。 「ロレンス、マリー様をお送りしましょう。大きなお荷物をお持ちですから」 「そうだね。エリザベス、君は優しいね」 「そんなこと……」  いちゃつきはわたしがいないところでやってほしい。エリザベス様は性格がよさそうだし、よかったね。幸せになってね。 「私は、すぐ、そこの、ベラルント銀行に行くところなので、大丈夫です。お気になさらないでください」  通りを横切ったすぐ目の前のガラス張りの建物を指さした。 「そうでしたか。では、ご一緒しましょう」  エリザベス様が淑女の微笑みをたたえた。  断れん、この圧力。これが本当の淑女か!  仕方がないので、ロレンスに荷物を渡すと、ロレンスがよろけていたので、気が晴れた。ああ、ロレンス様だったわ。  銀行の扉をくぐると、受付の人のほか、偉そうな人まであわてて玄関に集まってきた。 「エリザベス様。ご来店、ありがとうございます」 「本日のご用件は、いかがでしょうか」  なんかみんなぺこぺこしている。  どういうこと?  ロレンスをみると、 「ここはエリザベスの実家が経営している銀行だよ」  ロレンスがにこりと笑った。  ええええ! マジか。  開いた口がふさがらなかった。だから、前回の人生で、見たことがあったんだ! ロレンス様の婚約者だから見たことがあると思っていたが、銀行のご縁もあったのね。 「きょうはこちらのマリー・ヴィスワフ子爵令嬢を案内しに来たの。頭取はいらっしゃる?」 「はい。きょうはおります」 「では、マリー様をすぐにおつれしてあげて」  受付の人がにこりと肯いた。 「わたしはここまでで失礼しますね。頭取によろしくお伝えください」  エリザベス様はにこりと微笑んだ。 「はい。あ、ありがとうございました」  あわててお礼を言うと、エリザベス様は「ふふふ」と笑いながら、ロレンス様にエスコートされて出ていった。  行員一同、深く礼をしてお送りしていたよ。  うわ、びっくりした。 「マリー様、こちらに」  以前とは別の応接室に案内される。前のところより広くて、高級そうな絵画や壺が飾ってある。  前の応接室でも十分だったのに。このVIP扱いはなんとなくこそばゆい。高そげなモノがこわいので、近寄らないことにしようと思う。  よく見ると、この絵は最近はやりの画家が描いた植物画だ。この壺はだれのものだろう。壺の下の刻印を見たいけど、触って壊して弁償とか言われたらやだな。  迷いながら、美術鑑賞していたら、ドアがノックされた。  びくんと身体が反応する。 「お待たせしました。頭取のマキウス・ベラルントです」  男性が扉から入ってきた。 「あ、あの……、あなたは」  なんか見たことがある。その眼鏡は……。 「王宮議会での、マリー様の報告、お見事でした」 「と、頭取?」 「はい。王宮議会の議員を父の代わりに務めております。また、銀行では頭取を」  うわ。セレブだ。権力持ちがいたよ。見たことがあると思ったら、ドアを開けてくれた人だった。 「きょうは、返済計画と街づくりの計画を見せていただける予定でしたね」 「あ、はい」  仕事ができる男らしい。前の融資担当者からきっちり引継ぎもされていたようだ。さあ、気張ってプレゼンしないとね!  アクセサリー作りと、トレジャーハンターのツアー、コンテストを兼ねたファッションショーを計画していると話すと、マキウス様は渋い顔をされた。 「楽しい体験は楽しい思い出という記憶になる。記憶に残れば購買意欲につながりますから、未来の顧客になる可能性がありますね。ただ、アクセサリー作り、トレジャーハンターツアー、アクセサリーのファッションショーだけでは魅力があるとは言い難いですね。もっと根本的な、大きなものが必要です」  きついお言葉である。その通りだと思うけどさあ。だってお金がないんだよ。仕掛けとかつくれない。 「アクセサリー作り、トレジャーハンターツアー、ファッションショーの宣伝をしても、お金を相当つぎ込まなければ周知されません。マリー嬢が社交界で有名人だったなら、別ですが。このままだとおそらくタクラン駅を造られても、降りる方はいないでしょう。タクラン駅を造る意義がありません。もっとタクラン駅を降りたくなるようなことはないんですか?」  有名人といえば、有名人だけどね。婚約者を取られたご令嬢ってことで。王宮議会でもご指摘がありましたが。ああ、腹が立つわ。私をいじめたじいさんたちに禿の呪いと足の小指をぶつける呪いをかけてやる。  タクラン駅に降りたくなるほど何かがあったら、銀行にお金を借りに来てませんと言いたいところだけど、言えない。 「それならば、タクラン駅に降りず、隣国から橋を越えて、リバーサイド駅、マイミア駅を経て王都入り口駅に直通で行った方がいいじゃないですか」 「確かにそうなんですけど。でも……。タクランといったら我が領地で一番の町なんですよ。さびれてしまうじゃないですか」  私は眉根を寄せた。 「だからさびれないように考えないと! いいですか、あなたは代行なんですよ」 「はい。そのとおりです」  マキウス様は口角を上げた。 「通行料はどうなっているんですか?」 「領民は現在通行料は割引してます」 「なるほど……。貨物の方は?」 「貨物……。貨物! そうですね。貨物の量が増えますものね。貨物の通行料も取りましょう。通商料でとりましょうか。それとも通商税? 個数できめたほうがいいのかしら。それとも重量? ああ、貨物を積むなら、タクラン駅があれば、タクランからも荷物がつめますもの。やはりタクラン駅を造った方がいいですね?」 「でも、貨物だけじゃまだ弱いんですよね。貨物の料金だけじゃね」  頭取様の言う通り。その通りだ。 「ええええ。どうしましょう。とりあえず、次回お会いするまでに貨物料金を決めてきます」 「ああ、それなら隣国にいるアルフレッドに聞くといいですよ」 「え? お兄様とお知り合いですか?」 「はい。王立学校時代の同級生なんです」  そうなんだ、じゃ、お兄様に働いてもらおう。 「アルフレッドは学校時代から領地に鉄道を敷くと言ってましたからね。その時は相談に乗ると約束していたんです」  マキウス様はにこりと笑った。 「お兄様に、隣国の鉄道貨物料金を調べてもらって、隣国とほぼ同額にしようとおもいます」 「そうですね。それがいいと思います。カルカペ王国に来て、急に料金があがると、利用者が減ることになるでしょうから」 「採算がとれるまで少しきつくなりますが、つぶれては元もありませんしね」  私の言葉にマキウス様はうなずいた。 「領地に何かほかにないんですか。ビックニュースとか」 「何かないかって言われても……。あ、最近、温泉が出たんですよ。足湯に入ったことがあるんですが、温泉っていいですね。お金があれば温泉施設を充実させたいとか思ってるんですが」 「温泉! いいですね。どこから出たんですか」  頭取が食いついた。私は地図を広げ、リバーサイド駅とタクラン駅の間のところを指をさす。 「いいところじゃないですか。これならタクラン駅をつくる意義がある」  頭取は腕を組んでうなずく。  そ、そうですかねえ。ありがとうございます? でもお金ないんですよ。  なんて言って答えたらいいのかわからず、首を斜めにしていたら、 「うちが温泉施設の半分を負担しましょう。あ、うちといっても伯爵家ですね。で、残り半分のほうはベラルント銀行がお貸ししましょう。ゆっくり銀行に返済していただければよい。ヴィスワフ子爵家にも旨味がありますよ」 「え! いいんですか?」 「はい。ホテルを建てて、王都から一番近い保養地というのをウリにして、一大観光地を展開してもよいですね。こちらこそいい商売ができそうです」  マキウス様は黒い笑みを浮かべた。高位貴族というものはお金の使い方知っている。お金持ちはますますお金持ちになるってことだ。先見の明、すごい。  ううう。で、鉄道はどうなるんでしょう。 「鉄道事業の方は、国家事業として絡んできそうなので、王宮議会の動きを確認しながらになります。時期等、もう一度行内で検討させてください」 「はい」  私の不安を読み取るかのようにマキウス様はつづけた。 「温泉施設、宝石関連事業、貨物など総合すると、王宮議会の手を借りなくても、当行だけで鉄道事業のお手伝いができると思いますが、こればかりは動く金額が大きいので、国の動きを慎重に見極めたいと思います。もう少しお時間をいただきたい」  そうですよね。頭取といっても、勝手に決められないですよね。 「ありがとうございました。温泉事業へのご出資、ありがとうございます。鉄道事業についてはよろしくご検討ください」 「二、三日中には結論を出せると思います。その時、温泉関連事業の件も契約書類の方をご用意しておきます。確認しながらお話をしたいので、また詳しい資料をお持ちください。資材のほうも供給できるよう着手してくださいね」  鉄道事業も何とかなりそうな手応えだ。おまけに温泉施設まで出資が決まった。よかった。ほっとしながらソファから立ち上がる。あとは資材確保か。  時計を見ると、お昼を過ぎていた。  銀行が混み合っているようで廊下まで賑やかな声がする。ああ、商売繁盛で羨ましい。  さて、家に帰って、お父さまに話して、お兄様にお手紙書いて、弟にも説明しないと! 温泉施設の図面に、貨物の料金表などいろいろ揃えないとね。頑張ろう。希望が見えている。 「よいお取引なりそうでこちらとしてもありがたいです。次回の打ち合わせを楽しみにしております」  マキウス様は笑顔になった。淑女の礼を返し、お暇しようとすると  ドアを開けようとした瞬間、廊下側のドアが「バン!」 と突然開いた。 「いたああ」  思いっきり頭にドアがぶつかった。  ひどい。痛いじゃない! 危ないなあ。  涙がじんわり滲んできた。けっこう固いドアを使っているんだわ。全然割れていないわ。私の頭の方がピンチよ。  頭をなでていると、緊張しているのか、息切れしている、しゃがれた男性の声がした。 「手を挙げろ!」  謝罪ではなく、脅迫されているようだ。マジか……。どうしてこうなるの。嫌な予感しかしないんだけど。  最近のわたしはついてない。本当についてない。誰か私を呪っている? 厄除けとかした方がいい? もう、どうしてこうなった?  別室で相談していたのが仇に、人質になってしまった。 「こんなところで融資の相談か! 貴族っちゃ金持ちでいいな」  男性が嫌味を言う。  がーん。びっくりだ。もうちょっとよく調べたほうがいいよ、銀行強盗さん。貴族だから金持ちってわけじゃないんだからね。 「あの、うちはお金がなくって、借金の相談に来たんですが」 「は? 借金って言ったって、大したことないだろう?」  男性をよく見ると、銀行を探してよろけた時に助けてくれたおじさんだった。 「あ、その節はありがとうございました」  淑女の礼をすると、おじさんは眉をひそめた。 「おまえ、誰だ? ううん? ああ、この前の」 「おかげで転ばずに済み、助かりました」  貴族街の道で転んでしまったら、醜聞に醜聞が重なって、街を歩けないところだったわ。本当に助けてくれてありがとう。 「おじさん、どうしてこんなことを?」 「お前、どうしてここに? お前、貴族だったのか」  おじさんは私の顔をじっと見た。 「はい。貧乏貴族でございます。鉄道を敷くお金がなくって、こちらに来てご相談していたところなんです。国の事業なのに、国がお金を出すのを渋っていて」 「鉄道とか、金がかかるだろう。平民だってわかる。それなのに国は知らんぷりか。ひどいな」 「うちの領地が借金を背負うことになるんですが、そのお金をここで借りようと」 「莫大なお金がいるだろう?」 「ええ。そうなんです。だからうちはチョー貧乏です。でも領民にそれを背負わせるわけにはいかないですからね。なんとかお金を借りて、返済しながら領地を経営しないといけません。おまけに、私、先日婚約者に逃げられちゃいました」 「はあ? 婚約もなくなったとは、目も当てられねえな。若いのに」  おじさんは気まずそうに視線を下に落とした。 「おじさんは? どうしてこんなことを?」 「アントワーヌ領に住んでいたんだが、昨年の不作で暮らしていけなくなり、どうせ野垂れ死ぬなら銀行を襲って、腹いっぱいうまい飯を食って死にたいと思ってな」  なんてことだ。ロレンスのところの領民だったのか! ロレンスのところも貧乏だからなあ。おじさんの気持ちもわかるけど。強盗はよくないよ。 「おじさん、借金もつらかったと思うけど、私の借金と婚約解消に比べたら、そんなに不幸でもないと思う……」  「そうだな。若いのに、よく耐えているよ。俺ももう少しがんばってみたらよかったんだろうか」  おじさんが慰めてくれた。 「アントワーヌ子爵はよい人だから、今ごろちゃんと領地の立て直しを考えているよ。おじさんももう少し待てればよかったんだけど。でも、おじさん、今ならまだやり直せるよ。ね、頭取?」 「ああ、自首するなら、情状酌量するよう話してやる」 「そっか。わかったよ。悪かったなあ。俺より不幸な人がいるのに愚痴っちまった」  おじさんは頭取と私に深々と頭を下げた。  まあ、不幸だよね、私。ははは。  扉の向こうから騎士たちの声がする。 「お嬢さん、頑張れよ。応援してるからな」  「おじさんも、頑張って。生きていればなんとかなるから」  おじさんは静かに口角を上げて肯いた。それから抵抗せず騎士たちに捕まえられていた。  銀行員の人たちが頭取と私が無事かと集まってきた。 「自首するなんて、頭取、どんな手をつかったんですか」 「ヴィスワフ子爵代行様は大丈夫ですか?」  融資担当の人も心配そうに私たちを見た。 「マリー嬢が彼を説得してくれたんだよ」 「なんと!」  行内中が驚きに包まれた。  いや、大したことしてないですから。婚約解消と貧乏話をしただけで。もうそういう目で見なくていいですよ。いたたまれない。  居心地が悪いので撤収! 帰ろうとしていたら、 「マキウス! マキウス! マリー様! 無事ですか?」  この声はエリザベス様。  エリザベス様が入り口の扉を開けて入ってきた。 「マリー嬢! 大丈夫かい?」  うわ、ローレンスまでいる。 「大丈夫です。エリザベス様、ローレンス様」  にっこり笑って、出口のほうへ一歩踏み出す。 「マリー様が銀行強盗を説得して自首させたので、被害はありません」  マキウス様はエリザベス様に事情を説明している。  こっそり帰っていいですか? いいですよね。  そっとドアを開けようとしたら、 「マリー様? どこにお行きになるの?」  エリザベス様がいい笑顔で私の肩をつかんだ。  ひー! もういいですから。元婚約者と新婚約者が揃うなんて、修羅場以外ないでしょ。帰らせてください。 「あの、もう帰ろうかと」 「え? そうですか。いろいろありましたものね、心が騒がしくなっておいででしょう? わかりますわ。お茶でもいかがですか?」  ええ? やめておきましょうよ。  どんどん追い詰められていく感じがするのはなぜだろう。エリザベス様がぐいぐいくる。 「姉さん、マリー嬢がおびえている」 「まあ! マキウス。失礼な。そんなことなくてよね? マリー様」 「ちょっと、姉さん。マリー嬢のご都合もあるって」  姉さん? 姉さんって言ったよね?  驚いて、頭取とエリザベス様を見比べてみると、ちょっと似ているかも。面影がある。 「お茶にお誘いもせず、申し訳ございません。何となく言いづらくて」  マキウス様が頭をかいた。 「そうですよね。お姉さんの婚約者の元婚約者なんて。でもビジネスの方はお話がよい方向にむかっているので、よかったです。今後ともよろしくお願いします」  マキウス様と私は苦笑する。 「あなたたち、いいコンビなのね。仲がよくなってよかったわ。きっと相性がいいのよ」 「えええ? そんなことは」  こんな傷持ちと相性がいいって、マキウス様に失礼になる。 「ええ、そうかもしれません。私のことは、マキウスとお呼びください。ヴィスワフ伯爵代行のマリー様はお客様であり、もう私たちの友人なのですから」  マキウス・ベラルントが笑う。  いつから私たち友人になった? 教えてほしい。もう開き直るしかない。うん、そう、もう友人になったんだ。私たち友人です。 「銀行強盗を捕まえる手助けをしてくださり、また当行を守っていただき、本当にありがとうございます」  エリザベス様は美しく頭を下げた。高位貴族だから本当は私に頭を下げてはいけないのに。胸がじんと熱くなる。やっぱりエリザベス様はいい人なんだな。 「マリー嬢が説得してくれたから、怪我人も出ていない。本当にありがとう」  マキウスが私の手を握った。 「貴族として当たり前ですわ。オホホホ」  せいいっぱい笑みを浮かべ、空笑いして見せた。淑女の微笑みになってますよね?  なんだか疲れました。もう帰ってもいいですよね? 私を帰らせてください。  それから、エリザベス様とローレンス様とマキウス様と私でもう一度応接室に入り、お茶を頂いた。  精神が削られていったのは気のせいではないと思う。
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