10 お弁当! いいですね

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10 お弁当! いいですね

 ベラルント銀行に再度温泉計画と鉄道料金表、魅力ある街づくり計画、返済計画を提出し、王宮議会の決定を待たず、お金を借りられることになった。このまえの銀行強盗を自首させ、行員たちが無傷だった功績も影響しているらしい。  よかったです。本当によかった。これでうちの領内も立て直せると喜んだのだった。  半年後、鉄道はなんとかリバーサイド駅からタクラン駅まで敷くことができた。あとは、タクラン駅からマイミア駅までつなげればよいだけだ。マイミア駅から王都入り口まではほぼ工事は終わっている。一年たたずにここまでできたって、すごいよね。  しかし、領民のほか、誰もタクラン駅で降りないのよね。そんなに魅力ないかな。  使うとしてもタクラン駅で荷物を積んで、すぐにリバーサイド駅に戻り、王都入り口まで行ってしまう。悲しい。領主代行としては、悲しすぎる。  タクラン、いいところだよ。ぼったくりの店とかないし。王都の店に比べると、野暮ったいのかもしれないけど、人情溢れる店が多い。そういうのも、都会の人は嫌なのかな。もうちょっと都会の一見さんが入りやすい店を増やしたらいいかもしれないね。オシャレなところとか? タクランの皆さんにも意見を聞いた方がいいかもなあ。  たしかにまだタクラン駅からマイミア駅までつながっていないから、王都からの人が少ないという理由もあるんだろうけど、やっぱり先行きが不安だわ。  なんとかお金をタクランで落としてもらいたいのに、降りてももらえない。どうしたらいいのかしら。  マキウス様の言う通り、温泉施設ができるまで待つ? でも、それは一年後でしょ。それまでタクランの町がどんどん寂れてしまわないかしら。  マイミア駅ができるまでに出来ることってないかな。気に留めておこう。 今すぐ解決できないというモヤモヤを抱え、王都へ向かった。  王都に行ったのはベラルント銀行に行くついでに町おこしのアイデアを探しに行ったのだ。王都に着いたのは昼過ぎで、なんとなくお金がもったいないような気がして、お店で食事をする気がしなかった。  お金のことを考えていると、ケチケチになるよね。節約モード発動中。  貴族用の大通りにあった広場の噴水に腰掛けていると、お昼を食べに急ぐ人たちのすがたがあった。  ぐううう。私のお腹の音がした。  お腹は空くけど、お金を使いたくない。だって王都の店はタクランの店より1割から2割ほど高めなんだもん。かと言って、このまま銀行へ行くと、またお腹が鳴ってしまうだろう。マキウス様に聞かれたらと考えると、恐ろしい。恥ずかしくて、逃げ出す。マキウス様のことだから、微笑んできっと食事に行こうとか気を使って下さる思うけど。銀行頭取に気を使われるって、どんな罠? 罠でなくて罰? とにかくそれも申し訳ない。なので、銀行で赤っ恥をかかない方法は、ここで何か食べること。一番安上がりなのは、何だろう?  人々は出店の方へ歩いて行っている。きっと貴族街で働く人なんだろうな。毎日外食はつらいから、きっと出店でお昼を調達しているんだろう。そこで何か買おうかな。  お店側も出店なら回転が速いから、店内と弁当の両方を扱っているみたい。なるほど、王都の商売の仕方は参考になるわ。  立ち上がって、出店に近づくと小さな入れ物にパンと肉を野菜と炒めたものが入っていた。向かいの出店ではサンドイッチを、少し行ったところではソーセージがパンにはさんであった。  今はやりのお弁当ってやつらしい。安くて、簡単に手で食べられるものが売られているようだ。  これは便利ね。いいわあ。んん? もしかして、いけるかも! そうよ、リバーサイド駅、マイミア山駅、王都入り口駅でお弁当を売ればいいんだわ。タクラン路線ができたら、タクランでも扱えばいい。それともタクランでも鉄道路線完成前に扱った方がいいかしら。タクランで荷の積み下ろしをする人たちにも提供できるもの。  リバーサイド駅からはトンネルに入ってしまい、景観を楽しむことはできないし、王都入り口駅から降りて、王都まで馬車に乗ってもまだまだ時間がかかるから、お腹が減るに違いないもの。王都まで鉄道が敷かれれば、馬車よりも時間はかからないと思うけど、それでも時間帯によってはお弁当が売れると思う。  隣国や周辺の領地から王都への直通鉄道としてうちの鉄道を利用するなら、きっとお腹も減ると思うんだよね。ビジネスで来ているから、途中下車はしないだろうし。お弁当を買ってもらえたら、ありがたいな。  美味しい記憶があれば、きっと時間ができた時ヴィスワフ子爵領に遊びに来ようと思ってくれるはず。温泉もあるし、王都より最寄りの観光地、保養地になるもの。  お弁当の包み紙にヴィスワフ子爵領の観光マップを分かりやすく書いたらどうかしらね。これでうちの領土に降りてくれる人たちが増えれば、お金も落ちるもの。  ホクホクした気分になったので、屋台で一番美味しそうな、甘辛のタレをまぶしてある肉がいっぱい挟んであるパンを2つ買って、ほおばった。うま! やっぱり美味しい。外で食べるのもいいもんだ。  周りに貴族の人らしき人がいないか見回す。  淑女らしく食べるというのを忘れていた。屋台で買って外でぱくついていただけで、醜聞になるだろう。あ、でも、もう婚約解消されてるし、いまさらか?  お腹も満たされたところで、銀行の扉を開けた。  銀行でマキウス様と話し合いをした結果、マキウス様が今度ヴィスワフ子爵領に視察に来ることになった。  うーん、マキウス様がうちの領地に視察に来ると言うから、こちらとしては歓待しなくてはならないだろう。ああ、おもてなしかあ。うちの領地、まだなにもないだよなあ。どうしよう。  温泉施設(簡易小屋)、ハープス川の橋、マイミア路線とタクラン路線の紹介だろうか。 うちの領地でゆっくりしていかれるんだろうか。泊まるとなったら、やはりうちの屋敷になるんだろうな。だってホテルも宿泊施設も何もないもの。  こう考えると、やはりビジネスマン的にはヴィスワフ子爵領に宿泊施設がないのはつらいのかもしれない。隣国や他の領地から仕事で訪れる人が素通りするわけだ。  温泉街にホテルを建てて、平民向けの宿を数軒建てる。ビジネスマン用と家族向け、気軽に泊まれる安い宿がいるだろう。それから、貴族新聞と平民向けの新聞に広告を打って、記者に体験記事を書いてもらう。お金がかかるなあ。  ここで削っちゃいけないんだろうけど。初期投資ということで予算をつくるか。  マキウス様のいうようにホテルを建てるのはけっこう重要だったのかもしれないなと思いながら帰宅したのだった。
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