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16 お茶会のお誘いがきた
「マリー。すまないがお茶会に出てほしい」
「え?」
お父様は気まずそうに私を見た。お母様も渋い顔だ。王都から帰ってきた2日しかたっていないのに、お茶会ですか?
お茶会って、貴族のお茶会ですよね? うちみたいな底辺貴族にお茶会のお誘いが? え? それともヴィスワフ子爵夫人つまりお母様が開くんだろうか。いやあ、あり得ない。お茶会なんて行ったことはあるといえばあるけど、親戚のおばさんとのお喋り会だった。そういうのではないんだよね?
「ああ、えええと。つまり、王城で開かれるお茶会だ」
「はあ? 王城ってどうするんですか。私、服もありませんよ。マナーも不安です。断ってください」
「断れるなら断っている」
お父様の言葉でリビングが静まり返った。
「うううう。そうですよね」
「ああ、断れないから、マリーに頼んでいるのだ」
お父様の顔がこわい。怒らせてしまったらしい。ああ、ぎっくり腰が悪化しちゃう。
「あなた、ちょっと落ち着いてください」
えええ、本当に私が行くんですか。役立たずですよ? まだお母様のほうが社交界に長くいたので、うまいのでは? お母様にお願いしてください。
「招待状で名指しされている」
お父様は招待状を見せてくれた。本当だ。私の名前が書いてある。嫌な予感しかしない。王城と言えば王と王妃、あと王子だろう。
首を落とすときに宣告したのは王子だ。話を聞いてくれなかった王。過去が私を襲う。
「あなた、マリーが震えている」
お母様が私をやさしく包み込む。
「すまない。マリー、選択権はないんだ」
前の人生の過去は過去だ。もう襲いかからない。私はこれからの人生を生きる。そう決めたのだ。
「わかりました。お茶会に出ます」
しかし、お金があるのかしら。大丈夫なの? ヴィスワフ子爵家のお財布。ちょっと心配なんだけど。
不安そうにしていたらお母様がほほ笑んだ。
「ドレスや馬車の手配は心配しないでよいわ。本家筋のタマシカ伯爵にお願いすることにしたの」
大丈夫なんだろうか。タマシカ伯爵って偏屈じいさんで有名なんだけど。お金出してくれるの?
「タマシカ伯爵から王宮からのお茶会の手紙が届いたんだよ。田舎だからとか辺境だからって断られないようにってな。ほんとうにそういう貴族仕事はうちの王族は上手いんだよな」
「お父様、不敬でつかまりますよ」
「こんな貧乏子爵家にカラスは来ないよ」
お父様は笑った。
カラスとは王宮にいる監察官のことだ。どこに潜んでいるのかわからない、顔も知られていない官僚で、あちらこちらに行って統治の具合を確認しているらしい。
いやあ、いると思うよ。だって、鉄道敷いているんだもん。もうちょっと危機感を持ってほしい。それで死んだのだから。
ついでに資材の取引先を決めて、ベラルント銀行に行って報告しないと。取引先の選定は急ぎだ。
「わかりました。では近日中に出立して、王都にあるタマシカ伯爵のタウンハウスに行きたいと思います。ついでに資材の取引先を決めて、ベラルント銀行に報告してきます」
どちらがついでかは不明だ。本当に私がお茶会にでるのか。憂鬱になる。仕方がないよね。仕方がない。貴族的な言い方が苦手なんだよなあ。
私は頭を抱えた。
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