17 取引先

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17 取引先

 取引先、どうしようかなあ。目下頭を悩ませている問題だ。お茶会にも誘われてしまっているから、明日王都へ行く予定。それまでに決めなくてはいけない。 というのも、条件だけ見たらアッタラマ会がいいに決まっている。でもなんか引っかかるんだよね。  小さいお店だけれど、タノカノ商会にしておくべきか。ちょっと高いんだけどね。  お父様に聞いたら、お父様も調べておくって言っていたけど、大丈夫なのかな。きょうもぎっくり腰が痛いらしく呻いていたよ。お母様も湿布をもって駆け付けていた。  先日ベラルント銀行にも行って、報告書を出してきた時ね、マキウス様にも聞いてみたんだけど、アッタラマ会について情報があまりないって言っていた。あまり良い噂は聞かないけれど、事業に失敗したとは聞かないらしく、判断が難しいとマキウス様が眉根を寄せていた。 「もし、そこと資材取引をするときは一声かけていただけますか? アッタラマ会に資金を提供している銀行を調べてみます」 「はい。家に帰ってタノカノ商会とどちらがいいか、検討してきますね」 「十分検討してください。アッタラマ会は最近伸びてきた商会で、バックに誰がいるのかわからないところで、金融街でも噂になっているんです」  私はマキウス様に約束して、別れたのだった。  マキウス様もどうやら怪しんでいる様子。それにね、ホテルに帰るとき、屋台で肉のつけダレ焼を買おうと列に並んでいたら、 「ラカムが行方不明? どうして?」 「なんかアッタラマ会で商品をそろえてもらったらしいんだけど、オープン当日店の主として座っていたのはラカムではなく、肌色が黒くて目が黒い若い男だったんだって」 「目が黒い男? 肌が黒い男なら、その辺にいっぱいいるが」 「ああ。それだけじゃない。ほかにも八百屋の数軒先にあった店、あそこは昔古道具屋だったんだけど、あの店主がやっぱり目の黒い若い男だったって。それでアッタラマ会から古道具を回してもらっていたらしいよ。昔の店主は白髪頭のよぼよぼじいさんだったんだよ」 「なんだか気味が悪いね」  おばさんたち、その話、もっとして。ぜひ聞きたいです。 「この王都でアッタラマ会と取引のあった商店の主はみんな行方不明になっているって噂だよ。アッタラマ会いわく、うちと取引して、商売が成功したから帝国に移住したっていうらしいよ」 「帝国って、ポルケッタですか?」 「なんだい、お嬢ちゃん。誰かいなくなったのかい?」 「いえ、そういうわけじゃないんですけど。商売がしたくって……」 「ああ、そうかい。商店街で商売がしたいのかい。えらいね、店を持とうと思っているなんて」  おばさんたちがほめてくれる。ちょっと商売の形態がちがうけどね。 「アッタラマ会の人たちも黒い目の人が多いだろ? それにポルケッタ帝国の人たちも黒い目が多いっていうじゃないか」  そうですね。たしかに。会頭のアラブカも黒い目だったかもしれない。モノクルばかりが印象に残っていたけど。  気が付くと、肉の列からはみ出ていたせいで、肉が売り切れていた。許すまじ、アッタラマ会。 ということがあったんだよね。  商店街で行方不明って、どうなんだろう。王都で働く人は色々いる。たしかにいなくなってしまう人たちもいる。でも、自分のお店を開いて、店主になるって言うのに、いなくなるんだろうか。  もし、私がいなくなったら。まあうちはお父様もお母様もいるし、お兄様、弟もいるから、私が行方不明になっても鉄道事業は続くだろうけど。でも、自分が行方不明っていやだよね。物騒だ。  お父様が腰を丸めたまま立って仕事をしていた。 「お父様、大丈夫なの?」 「ああ、少しならな」 「なら、いいんですけど。ところで取引先ですけれど、お父様はどう思われます?」 「お前はどう思う? 勘でもいいから言ってみなさい」  お父様は微笑んだ。 「そうですね、アッタラマ会の会頭アラブカがちょっと苦手です。今度王都へ行くとき、ケーキに入っていたイミテーション20個返してきますけど。あと、アッタラマ会と取引したら行方不明という話も聞いています。見積もりは確かに安いんですけど、ちょっと不安です。だからタノカノ商会でしょうか。タノカノ商会は隣国の商会らしいですね。隣国を頼っていいのかは判断できませんけど」 「私も同じ意見だ。アッタラマ会は信用できない。タノカノ商会にすべきだと思う。イミテーションは会頭に返しておくといいだろう。行けるかい?」 「もちろんです」  会頭がいないときに返却したいところだ。 「マキウス様からも手紙が来ている。アッタラマ会の裏がとれないって。どこの貴族がバックについているかも不明だそうだ」 「そうですか」  マキウス様も心配してくださっているんだと思って、嬉しくなる。  親子でタノカノ商会にすることが決まった。  さっそく返事をお父様が準備してくれるという。私は明日また王都へ行くことにした。 「供をつけていくといい」  お父様から許可が出た。でも、うちの屋敷の人はギリギリの人数でやってるしなあ。正直一人でアッタラマ会とタノカノ商会を訪れてもいいと考えていた、どうせ銀行もいかないといけないし。現状貧乏子爵令嬢を襲うやつもいないだろう。  大通りしか歩く予定がないので、お供は不要とお父さまにお断りした。
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