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40 反撃1 火事とミヨーナ
次の日、マキウス様は王都に帰っていった。いろいろ準備することがあるらしい。
街に出て、ミヨーナを探すと、きょうも駅でお弁当を売っていた。
「ミヨーナ! 久しぶりね。商売は順調?」
「マリー様。なんとかうまくいってます。マリー様のところのお弁当屋さんが一番売れていますが、うちは二番目くらいでしょうか」
「けっこうがんばっているのね」
「マリー様のお弁当屋さんには負けませんよ」
ミヨーナが片方だけ口角を上げる。
「ところで、昨日はミヨーナは何をしていたの?」
「お弁当を作って売ってましたよ。一人で全部やるんですから暇なんてないですから」
「そうよね。でも、きのう火事があったの。そこであなたの姿を見たっていう人がいるのだけど」
ミヨーナの顔が引きつった。
「そうなんですか。知りませんでした。誰が私のことを見たんですか? ずっとお弁当をつくっていたはず……。あ、材料が足りなくて買い物には行きましたけど。その時に見られたのかもしれません」
「買い物の姿を見たのかしらね」
「どうして私が火事を起こしたと?」
「起こしたなんて言っていないわ。現場で見た人がいるって言っただけよ」
「不愉快です。マリー様のお弁当屋さんの裏口を燃やしたなんて疑われて」
ミヨーナの顔色が悪くなる。
「うちのお弁当屋の裏口が火事とか、私は言っていないわよ。知らないっていったのに、どうして知っているの?」
「そ、そんなの、きのう黒い煙があったのはあのへんだから」
ミヨーナは口ごもる。ミヨーナの額には汗が浮いている。
「でも、あなたは火事の場所を特定したわ」
「いいがかりです。適当に言っただけです。ひどいわ。貴族だからって平民に罪をなすりつけるんですね。これだから貴族っていやなのよ」
は? 何を言っているの?
思わず眉を八の字にする。
「だいたい証拠はあるんですか? ないでしょ?」
ミヨーナは笑う。
絶対ミヨーナが犯人だ。でも決定的な証拠がない。悔しい。
「証拠ならあるよ」
ロレンス様の声がして後ろを振り返る。
エリザベス様がロレンス様に肩を貸していた。
「マリー様、こちらへ」
エリザベス様が私をロレンス様の後ろにひっぱる。ミヨーナは小さなナイフのようなモノをスカートのポケットから取り出していた。
「僕は見たんだ」
「何を言う! お前がやったんだ」
ミヨーナがロレンス様をナイフで指さした。
まだ貴族制度があるこの国でその作法はどうなんだろう。いや、貴族じゃなくても人を指さしては失礼に当たると思わないのだろうか。
「なぜ僕が火をつけたと思うんだい?」
「その男は最近弁当屋さんが並ぶ辺りをうろついていた。おおかた借金とりなんだろう。それかマリー様の財産が妬ましくて町に火をつけようとしていたか。とにかく私が犯人ではないね」
ミヨーナは鼻で笑った。
最近この土地に住んだから、ミヨーナはロレンス様が私の幼なじみで元婚約者で、もうすぐ義理の弟になるって知らなかったみたい。
「残念。僕はマリー様にお金を貸しているベラルント伯爵家の人間だ。なぜ僕がわざわざ金が回収できなくなるようなことをするんだい?」
ミヨーナは眉根にしわを寄せる。
「僕は君が火をつけるところを見たし、君が逃げるところを見た。君が逃げるところを見た人間はほかにもいる。観念するんだな」
警備隊がやってきてミヨーナを捕まえる。
「私だって好きでやったんじゃない」
「でも、選べたはずよ。脱線事故も火事も実行に移す前に相談できたはず」
「誰も助けてくれはしない! そんなやついない!」
ミヨーナは腕を振り上げ、暴れた。
「そんなことはないわ。マリー様なら助けてくれる」
アリアがミヨーナの目を見た。
「おまえが裏切ったんだね。覚えていろよ」
「アリアは悪くない。悪いのはあなたです。牢へ入れておいてください」
私は警備隊に連れて行くよう指示した。
「ロレンス様、エリザベス様。わざわざ来てくださりありがとうございます」
「いいのよ。護衛からマリー様が動いたって連絡が来たし」
エリザベス様が笑った。
「護衛って? きのうマキウス様が言っていたけど」
「ホークだよ。ホーク。伯爵家の情報機関。僕とエリザベス様はそちらを担当することになったんだ」
ロレンス様は破顔した。
いたずらっ子な顔をしている。そういえば小さいころから顔に似合わず荒事が得意だったよね。向くわ、きっと。適材適所だわ。
エリザベス様は静かに微笑んでいる。
「アリアも、怖かったでしょ?」と聞くと、
「いいえ、マリー様にベラルント伯爵家がついていましたから大丈夫です。マリー様ならなんとかしてくれるって信じてました」
アリアはいい笑顔になった。
その後、アリアは脱線事故を起こした罪に問われることになったが、アリアの置いた石の大きさに気が付いたミヨーナが大きな石に置き換えたことが分かった。
また、アリアは火事が燃え広がるのを必死で防ぎ、消火活動に貢献したということ、ミヨーナの逮捕の手助けをしたことで、厳重注意の上、『商売と法律』という商工会一押しの講座を受けることでお咎めはないことになった。
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