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8 アクセサリーも作ってみた。
「マリー様!」
「アリア、元気だった?」
領地の見回りをしていたら、アリアが洗濯物を取り込んでいたのが見えた。最近町おこしのアイデアを探すために領地をぐるぐるめぐっている。
「はい。ちょうどまたアップルパイが焼けたところなんです。お茶の時間にするつもりだったのですが、マリー様もいかがですか?」
「いいの? うれしい。アリアのアップルパイは本当においしいのよね。いつもありがとう」
アリアはテーブルを片付け始めた。
アリアは領民のロイの娘で、料理やお菓子を作るのが好き。特にアップルパイは絶品で、毎年アリアのアップルパイを家族で楽しみにしているくらいだ。赤茶色の髪にキラキラと大きな茶色の目をしているアリアは、17歳。私にとってかわいい妹分だ。
「これ、何を作っているの?」
手先が器用なアリアは何かつくっていたらしく、テーブルの上には小さな工具や石、ビーズが並んでいた。
「宝石に加工した際に出た、小さい欠片をもらってきて、自分用のアクセサリーをつくっているんです。小さい宝石ってなんかキラキラしているでしょ? 何かできないかなって思って」
「へえ。アリア、すごいわね」
「そんなに難しくはないんですよ? マリー様は素敵な宝石をお持ちだとは思うんですけど、ほら、これをつけるだけで日常がワンランクアップした気がしませんか?」
アリアが作っている途中のヘアアクセサリーを見せてもらう。針金のようなもので石を固定して、小さなコームに括り付けてある。いっしょにビーズもついていて、なかなか華やかに仕上がっている。
「キラキラしていて、素敵ね。心が浮き立つわ」
「マリー様もやりますか? すぐにできますよ。お茶を飲みながら」
「うん、やりたい。アリア、教えて」
ふと脳内に絵が浮かぶ。
そういえば、前の人生でもアリアと一緒に作ったっけ。そのときは、お金がなくって、お父様とお母様が困っていて……。
まあ、それは今もだけど。あの時も私も何かしようと思って、仕事を探そうとしていた時だった。今回は私が積極的に領地経営の手伝いをしているから、前回よりはヴィスワフ子爵家は困窮していないようにも見える。
「ねえねえ。何してるの?」
「私もつくりたい!」
アリアの家の玄関の戸がいつも開いていることを知っているのだろう。いつの間にか近所の子どもたちが入ってきて、一緒に作り始めていた。
「マリー様、上手ですね。初めてとは思えません」
アリアはにこりと笑った。
「そ、そう?」
大きめの石をコームに括り付けてみた。大きい石の方が扱いやすいのだ。ふと、アリアの作品と比べてみると、さすがアリアの髪飾りは丁寧で美しい。品もよいし、私のものとは比べ物にならなかった。
ううう。なんか私ってセンスがない? でも、やっぱり自分で作るのっていいね。下手でもさ。
「アリアの作品みたいに、色をそろえたりしてもよかったかな。大きい石ばっかり選ぶより、小さい石がたくさんにしたほうがいいのかな」
コツをアリアにたずねる。
「そうですね。いろんな色を使うと、まとまりが悪くなるので、むずかしいんですよね。大きい石を選んでも、色合いを気をつければ可愛くなりますよ」
キャンディーみたいに可愛い大きな石がついている髪飾りを見せてくれた。
「これもアリアが作ったの?」
「はい。大きい石のほうが扱いやすいので、最初の頃につくってみたんですよ」
そっか、私、やはりセンスがなかったのか。明らかになってしまったわ。
「できた!」
「私もできたよ!」
さすが、遊びで毎日アクセサリーを作っている子どもたち。上手い。はっきり言って私よりうまかった。苦笑いだ。
みんなの作ったものを並べて、見せ合いっこをする。
「これ、かわいいね」
「ピンクの服にもに合うけど、白い服にも合いそう」
「ほんとうだ。コームよりもリボンに縫い付けてもいいかも。ちょっと貸してごらん」
アリアが子どもたちのアクセサリーに手を入れ、カチューシャリボンにしてあげた。みるみるうちに見栄えが良くなる。
「ねえ、マリー様、似合う?」
子どもたちが私に順々に見せに来た。
「うん、可愛い! ちょっとポーズをとってみて?」
「ええ! はずかしい」
恥ずかしいと言いながら子どもたちは私の前でスカートを広げてお辞儀をしてくれたり、くるっとまわって笑顔をくれたりする。
そうだ! 観光客を呼んで、自分でオリジナルのアクセサリーをつくってもらうのはどうだろう。下手でも自分で作ったものは愛おしいもの。いい記念にもなるし。
難易度別にしたり、女性向けのヘアアクセサリーだけじゃなくって、男性向けのネクタイピンを作ったり。それから、素人さんのデザインコンテストをしてもいいね。大賞を取ったものを職人が手作りしたりして……。
観光客が作ったものを本人が身に着けてファッションショーしてもらうのもいいかもしれない。
もちろん新作発表として職人さんたちが作ったものを披露する機会も作る。
宝石の町タクランを知ってもらって、流行を作り出すことができるようになれば……。そして、顧客のニーズを確認で着て、職人たちも新しい刺激がもらえたら、それこそ有難い。
よーし。タクランの商工会にちょっと相談しよう。
アリアと子どもたちに別れを告げ、私は意気揚々と町に歩き出した。
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