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プロローグ
「他国と通じていたなんてねえ」
「まさか」
広場に集まった王都民の前で、私たち家族は引きずられるように舞台に立たせられた。冷たい王都の民の目が突き刺さる。
階段を上らされ、人々の目につくように作られた首切り場。
やだ。まだ生きたい。どうしてこうなったの? だって、私たち何もしてないじゃない。田舎の領地で鉄道事業を始めて、ようやく貧乏から抜け出しただけ。
誰かが私たちを嵌めた?
ぐるぐると思考が回る。
誰がこんなことを? 私たちは領民とともに豊かに暮らしたかっただけ。他の領地や王都なんて関係なかった。だって、私たちだけで鉄道事業を展開したのよ。すっごく大変だったんだから。それなのに、妬むとか、羨むとか間違っている。
鉄道の資材が手に入らず、助けてって言ったとき、この国は手を貸してくれなかった。貸してくれたのはハトラウス王国など鉄道事業を始めている国だった。
「おまえたちは、鉄道事業、交易を勝手に行い、カルカペ王国を侮辱した。さらに他国のために利益を諮った。国家反逆罪である。よって、一家を処刑する」
王子が高らかに宣言した。
やってない。そんなことしてない。国家に反逆なんて考えてなかった。
王宮が、王宮議会が鉄道事業を認めなかったのが悪いんじゃないか。もっと早く王が鉄道事業を進めなかったのがいけないんじゃないか。
隣国にせっつかれ、我が領は交易が大事な収入でもあるから、鉄道に着手していただけ。たまたまそれは時流にのり、巨大な富を生んだ。でもそれだけだ。みんなにチャンスがあったはずなのに、切り捨てたのはこの国だ。
カルカペ王国の顔に泥を塗った? 塗ってないわ。生きるために進んだ技術を取り入れた。ただそれだけよ。
お父様もお兄様も悪くない。私だって鉄道事業に関わって、領内の整備に力を注いだ。少しだけだけど。でも、学生の弟とお母様は何も知らないの。せめて二人だけでも助けて?
王都民の顔はほの暗い。貧困と病に苦しんでいる民は格好の憂さ晴らしとして、私たちの処刑を見に来たのだろう。
「ヴィスワフ子爵ミルフレッド、その妻イリス、その子、アルフレッド、マリー、ラルフレッド。その方たち、前に出よ」
広場が沸き立った。
カルカペ王国は周辺国に比べ発達が遅れ、経済的にも不況になっていた。それに疫病もはやり、国民の不満が爆発しそうになっていた。唯一潤っていたのは早くから鉄道事業を行っていたヴィスワフ子爵領だけ。
でも、それって悪いこと? どうして鉄道事業をみんなしなかったの? どうして反逆罪になるの? 誰が私たちを悪者にしたの? 許せない。
どうしてこんなことするの?
私は王と王子をにらみつける。
キャーという声がした。チラッと顔を上げると、うちの領民が青い顔をしていた。
ごめんなさい。あなたたちを豊かにしてあげたかった。
元婚約者のロレンスの顔も見えた。隣には新婚約者のエリザベス様もいた。悲痛な顔をしている。
私も幸せになりたかったな。
「首を固定し、刃を振り下ろせ」
号令と共に、私たち家族は命を落とした。
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