別れ

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時に、“別れ”というものは突然やってくる。それも、予告もせず、突如として目の前に現れて、自分の大切なものや人をいとも簡単に奪っていく。これを経験し、悲しいと感じない人は恐らくいないだろう。 彼女、火箱薫も、今それを感じていた。彼女のところにも、突如として“別れ”がやってきたのだ。それも、恋人たちの日であるこの“クリスマス”の日に______。 場所は、市内のレストランであった。札舞駅から伸びる大通りに沿って、様々なビルが並んでいるが、その中のひとつに、『太陽ビル』という背の高いビルがあって、そこはいくつかの店舗が入っている商業ビルなのだが、そこの最上階にそのレストランはあった。 何もなければ、クリスマスだってこのレストランで美味しい料理と共に楽しい時間を過ごし、その後はホテルで愛を育むはずだった。それなのに、突如として“別れ”は彼女のところへやってきたのだ。彼女は唐突に、目の前にいる恋人、真壁研斗に「別れてほしい」と告げた。 それまでは楽しく話していた______いや、真壁研斗にも、彼女がいつもと様子が違うことには気が付いていた。これは何かあるな。と覚悟を決めて身構えていたが、まさか別れの言葉を、それもこんな唐突に告げられるとは思っていなかった彼は、動揺が隠せなかった。 「えっと、なんで?理由、聞かせてほしいんだけど」 真壁はいつものように優しい口調で聞いた。薫はその目に涙を溜めながら、小さな声で「……知っちゃったから」と答えた。 「何を?」 真壁が問いかけるが、薫はなかなか答えない。涙を堪える彼女に真壁はまた優しく、「ゆっくりでいいから、教えてくれる?」と言った。この状況は、真壁も不安であったが、目の前に泣いている恋人がいるのに、自分も泣くなんて許してはいけないと思っていたのである。
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