別れ

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涙を堪えていた薫は、ゆっくりとその口を開いた。 「あなたが、“巽一族”の血統の人だってこと……あなたはあの左門寺究吾先生の実の弟さんなんでしょ?ってことは、あなたも“巽一族”の血を引いてるってことだよね……?」 真壁は黙り込んだ。別に薫を騙そうとしていたわけじゃない。話すタイミングだっていくらでもあった。ただ彼はどうしてもそのことを話せなかった。それはなぜか______。その理由は、彼が本当に薫のことを愛してしまっていたからかもしれない______。真壁は大きく息を吐き、「ごめんね」と小さく言った。薫がした質問の答えは、すべてその一言に集約されていた。それを聞き、彼女は大粒の涙を流す。本気で好きになった人が、まさかあの犯罪者一族の一員だったなんて______。諦めきれないわがままな愛しさが、薫を苦しめていた。 「別に隠そうとか、嘘をつこうとか、そういうのじゃなかった。言うタイミングだって、たくさんあったけど、別れたくなくて言えなかった______」 真壁の思いはそれだけであった。 彼の中でも葛藤はあった。薫は刑事で、これから先、このままの関係性を続けていき、いずれは結婚なんてことになれば、彼女には必ず迷惑がかかる。だからどこかのタイミングで別れなければならないのに、彼女に会えば会うほど、彼女との時間を過ごせば過ごすほど、それがどんどんできなくなっていった。苦しんでいたのは薫だけではなく、真壁も同様だったのだ。 二人のその苦しみに、ケリをつけるべく、真壁も薫にこう言った。 「大好きでした。別れてください______」 そのつらく、重たい、そして鋭利に尖った言葉は、薫の胸に突き刺さった。 クリスマスって、こんなに悲しい日だったっけ______?ふと、薫は呟いたのであった。
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