追憶

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佐々幸守が新作の推理小説の打ち合わせを終えてハイツベイカーに帰宅したのは、もう夜も深くなった夜9時過ぎのことであった。今日は朝からその打ち合わせだったこともあり、体の芯まで疲労困憊であった彼は、近くの銭湯に立ち寄り、一人で疲れを癒してから帰宅したのである。 ハイツベイカーの二階、そこの暖炉の居間と呼ばれる部屋は、その名の通り大きな暖炉があるのが特徴的な部屋で、広いリビングになっており、そこの中央には食卓テーブルがあって、いつもならそのテーブルは綺麗に片付けられており、食事の時以外はほとんど使うことがないのだが、その日は違っていた。 幸守が帰宅し、暖炉の居間に入ると、ルームメイトの左門寺究吾がその食卓テーブルの上に段ボール箱をひとつ置き、その中から幾つかのファイルを取り出して開き、その中身を見ていたのである。 「おーおーおー、いつになく散らかしてんな。何なんだ?そのファイル」 幸守は入って早々に左門寺のところへ歩み寄り、彼が開いているファイルを覗き込んだ。 「幸守くん、帰ってきたんだね。これはね、僕がこれまで解決してきた事件が掲載された新聞や雑誌の記事だよ。記念にファイリングしてるんだ。最近はファイリングしたやつの整理が全然できてなかったからね。たまたま時間があったから出してきたんだよ」 「へぇ。お前そんなことやってんのか?」 「中には奇妙な事件もあったからね。大学の講義に使えると思ったからやってるだけだよ。異常犯罪心理学という分野は、まだまだ発展途上の分野なんだ」 「なるほどねぇ。俺にもたまに見せてくれよ。小説のネタに困ることがあるから」 「僕は別に構わないけど、そういうのは自分で考えるからこそ面白いものなんじゃないのかい?」
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