追憶

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「まぁ、そうなれば一番良いけどさ、なかなかそうはならないこともあるからさ」 少し寂しそうな顔をして幸守は言った。最近出した彼の人気シリーズの最新作が、あまり売れ行きが芳しくないらしい。彼自身では渾身の出来だと思い、期待を込めて出版したのだが、電子書籍でもあまり売れていないらしい。ルームメイトの左門寺も今作は買って読んだらしく、彼も感想として、「いつもと同じでトリックは良かったけど、ストーリーがイマイチだったね」と言っていたのである。そのことを幸守は案外根に持っているようで、「お前にあんなこと二度と言われたくないしな」と、左門寺を睨んでいた。 「本当のことだ。まぁ言われた悔しさを次に活かせ」 「めっちゃ腹立つぞ、左門寺」 「めっちゃ次に活かせ」 左門寺はそう言いながら、まるで子どもをあやすかのように幸守の頭にポンと手を置く。それをされるのも実に悔しいものだ。幸守は舌打ちをして、一度自室に戻り、着ていたコートを脱いでクローゼットにしまい、再び居間に出てくる。そんな彼に左門寺は「外は雪降っていたか?」と聞いた。 「いいや?寒かったけど降る感じではなかったな」 「そうか。僕が帰ってきた時は少し曇っていたから。それにテレビの予報だと降るって話だったから」 「まぁあくまでそれは“予報”だからな。外れることもあるわ」 幸守がそう言うと、左門寺はふふっと笑う。それに対して「どうした?なんか面白いことでもあったか?」と幸守が問いかけると、彼は「ちょっと懐かしいことを思い出してね」と言った。 「この話でか?」 「いや、そのことじゃない。このファイルを見ててだよ。ほら、覚えていないかい?あの事件のことだよ______」と言って、左門寺は今見ていたファイルを幸守に見せる。それは、ある殺人事件が報じられた新聞記事の一面であった。
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