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惨劇前夜
同時刻。北海道・札幌の時計塔の上に、その男は立っていた。
「ここが北海道、か」
黒いシャツに黒いスラックスを履き、ミリタリーブーツを履いた男は、さらにロボットを思わせる仮面を半面に被り、ロングコートのフードを被って正体がばれないようにしている。
顔を隠しているが、彼を知る人はすぐに気付くであろう。――それが、オリオンであると。
オリオンはひゅう、と口笛を吹いた。
「国の食料庫の貧乏化、過疎化っていうのは嘆かわしいねえ。国の食料庫こそ豊かに、人材を投与するべきだというのに。まあ、いいか。北海道の中央の呼び名は道央……だったか? そこに跳んでみるか」
オリオンは片足を後ろに引くと、ぐぐぐ、と力を込めた。そして、助走もつけずに上空五百メートルまで跳んだ。しかも、飛行距離が長い。オリオンは堕ちることなくぐんぐんと札幌を横切った。
「召喚主のやつ、うまいこと考えるなあ。確かに、戦争で一番効くのは兵糧攻めだ。食料の供給を断たれ、輸入制限をかけるしかなくなった国民は食べるものがなくなり、餓死するしかない」
オリオンはくすくすと笑いながら、一度電柱の上に降りると、再び助走なしで跳んだ。
夜の北海道の空、ちらほらと帰路に着く者、観光客に指を指されながら、オリオンは飛び続ける。
翌日の正午、北海道の人々に悪夢を植え付けるために。
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