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密談
同時刻。誰も彼もに忘れ去られた廃ビルの最上階に、その男は自分を呼んだ人影と対峙していた。
精悍な顔立ちをした美丈夫であり、背は高く、二メートルはあろう。胸筋の分厚さから、彼が戦士のように鍛えられた美しい肉体を持っていることを教えている。手には弓を持ち、肩には矢筒を背負っている。
黒いシャツに黒いスラックスを履き、ミリタリーブーツを履いた男は、自分の前に座る人影を、冷たい表情と目で見下ろしていた。
「――それで。次はどこを襲えば良い」
男は冷酷に、淡々と短く尋ねた。
男と人影の間には、一枚の日本地図が敷かれている。
人影は腕を持ち上げると、一つの県を指さした。
男は弓を持ったまま屈むと、分厚い唇の端を吊り上げる。
「北海道、か。これはまた大きな狩り場だな。それで、人数は?」
男に問われて、人影は短く答えた。
「百」
「百? おっと、ずいぶん大きくでたな。機嫌が悪いのか?」
「そう。とにかく殺して。たくさん殺してほしいの。……人間なんて、一人残らずいなくなってしまえばいいんだわ」
憎悪の籠もった言葉に、男は口元を押さえ、声を押し殺して笑った。
心底愉快だったからこそ、笑ったのだ。
「了解した。人間のついでに食料も狩ってこよう。鹿と羆ならどっちがいい?」
男の問いに、人影はこれから訪れる季節を考えて、熊と答えた。
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