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「アメリカですか。いいですね。でも、実は私、英語が苦手で。最近は外国の患者さんが増えて、困っているんです」
落ち着いた雰囲気の女性は、どうやら医師らしい。体のラインを拾うデザインのドレスを選ぶだけあって、スタイルもかなり良い。細い足首に対して、ふくらはぎはかなり発達している。日頃から運動をしており、自己管理も万全というわけだ。
月額五十万の会費を払える参加者たちは男女とも、一流企業はもちろん、起業家や弁護士などと錚々たる面々だ。
婚活パーティーというより、セレブ限定スタンディングバー、もしくは社交界だとすみれは思う。
そんなことより颯真を見つけなければ。
本来の目的を思い出し、僅かに焦る。
「あれ、どうしてこんなところに?」
「えっ、あっ」
急に背後から声がかかり、すみれは静かに狼狽えた。全く人の気配を感じなかったからだ。しかも。
「営業部の佐藤さんですよね。二ヶ月前に入社した」
振り返るとそこに、ターゲットである颯真がいたのである。
どうして、この完璧な変装を見抜けたのだろう。この薄暗い照明の下で。
すみれはごくり、と息を呑む。
「企画開発部の秦です。まだ、会社では話したことなかったね」
颯真は、間違いなくすみれだと確信しているようだった。
「秦さん、こんばんは。こんなところで、奇遇ですね」
変にごまかすより認めてしまうほうが安全かもしれない、とすみれは判断する。
「いいお相手は見つかりそうですか?」
颯真は探るように、すみれの顔を覗き込んできた。
婚活パーティーなのだ。なにをしに来ているかは、説明するまでもない。
「いいえ、ぜんぜん。私には場違いのようです。そろそろ帰ろうかと思っていたところです。それでは……」
「佐藤さん、待って」
逃げ帰ろうとしたところで、引き止められる。
「だったら、二人で飲み直しませんか? 実は、僕も一人なんです。上に雰囲気の良いバーがあるので、ぜひ」
「ええと……」
すみれは咄嗟にピンチとチャンスを天秤にかける。天秤は大きくチャンスへと傾いた。
颯真の本性を見破れるチャンスを逃す手はない。
「じゃあ、一杯だけ」
すみれはにこりともせずに言った。
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